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【暮らし】

<わが家のケア手帳>笑いで乗り切る 「面白い言葉」を記録

手を握って笑顔を見せながら、会話する春名正昭さん(左)と正江さん=東京都文京区で

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 「あんた、どこの人?」「(手作りした食事などが)おいしくない」−。東京都文京区の春名正昭さん(79)は、自宅で介護する認知症の妻正江さん(74)から、こんな言葉を投げつけられたときも落ち込んだり怒ったりしない。あえて「面白い」ととらえ、ノートに書き留めている。真に受けるとショックな言葉も、意識してユーモアとして受け止めると介護する側が自らを客観視でき、気持ちが楽になるという。 (河郷丈史)

 四月上旬。正昭さんがベッドの脇から正江さんにせんべいを手渡すと、正江さんはおいしそうにボリボリと食べた。「おいしい?」と声を掛ける正昭さんに、正江さんは「おいしくないよっ」と答えた。「大体、反対のことを言うの。あまのじゃくでしょう」。正昭さんが笑う。

 正江さんは要介護5で、認知症と診断されたのは五年ほど前。今では夫のことも分からないが、時折飛び出す「面白い言葉」を見つけるのが、正昭さんの日課だ。例えば、「こんばんは」と声を掛けると「こんにちは」。「愛しているよ」と言うと「嫌いだよ」。架空の誰かと会話して「うちは旦那さんがいないから。いるんだけど、何もしない人」と言ったり。

 正昭さんは、そんな言葉と出合うたび、ノートに記す。ノートは百ページほどになった。自分だけでなく妻も面白がらせようと、テレビの音楽に合わせてダンスを踊ったり。最近では、平昌五輪カーリング女子にならって「そだねー」と声を掛けると、必ず笑ってくれるという。

 正昭さんも介護を始めたころは戸惑うことが多く、正江さんが食事をなかなか食べないとイライラしてしかったり、手をたたいたりした。「真正面から向き合うと行き詰まってしまう」。話し方研修の講師を長年続け、ユーモアを取り入れた会話術を教えてきた経験から、介護を「笑い」で乗り切れないかと考えた。また、呼び掛けても反応しない正江さんに対し、ヘルパーの女性が怒ることなく「返事がないから、お出掛けしたのかと思った」と冗談を言い、場を和ませていたこともヒントになった。

 「認知症が進むのは仕方がない。それなら、毎日を面白く介護することが、本人も介護者も幸せだと思う」と正昭さんは思っている。

◆「関与者」であり「観察者」

 家族介護者のケアに詳しい渡辺医院(群馬県高崎市)院長の渡辺俊之さん(59)に聞いた。

        ◇

 正昭さんの試みは、マイナスのイメージが強い介護で、あえてプラスのことを探す方法の一つ。認知症の人が言う「面白いこと」を書き留めるのは、相手を「観察」しているということ。観察は通常の家族関係とは違う、一歩引いて外から眺める関わり方。介護している自分と相手の関係性を客観的に見ることで、イライラしたりといった感情が落ち着く。

 介護は家庭内に閉じこもりがちな上、長い間培ってきた家族の歴史がある。そのため、介護する家族はなかなか「観察者」になれず、一人の人間として対等に向き合う「関与者」の立場に埋没しがちだ。その点、正昭さんは妻の夫という関与者と、妻の様子を記録する観察者の両方の役割を、自分の中に持つことができている。

◇体験談を募集

 介護する家族が前向きな気持ちになるための知恵、工夫について体験談を募集します。ファクス052(222)5284、メールseikatu@chunichi.co.jp、郵送の場合は〒460 8511(住所不要)中日新聞生活部へ。

 

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