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【暮らし】

<ともに>伝統産業を継ぐ(中) 自然味方に逸品づくり

もち米作りの田植えに参加した子どもら=静岡県伊東市で

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 静岡県伊東市の山あいの田んぼ。昨年六月、一般社団法人「ひかり」(同市)が運営する放課後等デイサービス(放デイ)に通う子どもたちの笑い声が響いた。

 この日の活動は、田植え体験。子どもたち約三十人がもち米の苗を植えた。田植えは全員初めて。田植えの合間には、泥だらけでザリガニを捕まえたり、近くの川で水遊びをしたりして大はしゃぎ。休耕田を借り、水田として復活させた「ひかり」代表理事で僧侶の生田一舟(いっしゅう)さん(50)は目を細めた。

 実は、この田植えも京友禅の準備の一つ。もち米の一部は、下絵の輪郭をなぞる防染剤「ふせのり」の原料となる。染色作業は、就労継続支援B型事業所「梅染工房ひかり」で行われる。来年春に特別支援学校高等部を卒業する若者の就労場所にと、生田さんがお堂の近くに整備した。

 工房の方針は、化学染料を使わないこと。他の工房の下請けをするのではなく、染料の原料となる植物の採集・栽培までさかのぼり、生産工程のほぼすべてを担う計画だ。生田さんは「自然を味方につければ、絶対にまねできない製品が作れる」と力を込める。

 例えば防染剤。友禅作家の多くはゴムのりを使う。安価で扱いやすい半面、のりを洗い流す時に化学薬品が必要になる。「ふせのり」は、水で洗い流せるので環境負荷は少なくて済む。

 自然豊かな伊豆では、工房の周りで染料の材料がいくらでも採れる。庭にはニホンアカネや大きなビワの木がある。野山には山桃が群生し、ウメノキゴケも多い。藍色の染料となるタデアイなど自生していない植物は、田んぼの隅に植えて栽培する。染色で使う媒染液も、ツバキの葉などから作った。

 原材料を自ら採取・栽培したり、作ったりするのは自給自足の形に近づけたいから。「放デイと工房の助け合いがあれば、お金に頼らなくて済む範囲が広がり、安心感も増す」

 生田さんが工房で実践したいのは、ともに支え合うコミュニティーだ。放デイを利用する子どもには障害の重い子もいる。雇用契約を結んで働くA型事業所や一般企業での就労は難しくても、B型なら幅広く受け入れられる。そういう行き先が近くにあることは、放デイの子どもたちや家族にも、大きな安心となるはずだ。

 こうして開いた工房では現在、障害のある女性二人と職員が、技術の習得と製品の開発を進めている。友禅作家の山本晃さん(74)=京都市=が月の半分、伊豆に滞在して指導。視覚障害のある女性(64)は「自然に含まれている色を役立てるのはいいことだと思います」と笑う。放デイ利用者のうち生徒二、三人も来春から工房で働く予定だ。

 工房で作った初の商品は、植物染色の良さが発揮でき、肌にやさしい和ざらしのふんどし。ビワ、山桃、タデアイなどで染めた風合いのある品を、地元自治体のアンテナショップなどで販売したところ、百枚近く売れた。山本さんから技術を受け継ぎ、着物にこだわらず商品を開発、製造していくつもりだ。

 B型事業所で働く障害者の工賃は全国平均で月に約一万五千円。最低基準の三千円を下回るところもある。生田さんは「梅染工房ならではの商品だからほしい、と思える独自の商品を作り、高い工賃を支払えるようにするのが目標」と話している。 (砂本紅年)

<就労継続支援B型事業所> 毎日働くことが難しいなどの事情があり、一般就労や雇用契約を結んで働くことが困難な人が主な対象。全国で約21万人が利用している。軽作業などをし、工賃を得る。事業所には国からの給付費があるが、4月の報酬改定で、7割の事業所で減収となるとの調査もある。就労継続支援事業所にはA型もあり、雇用契約に基づく就労が可能な人が対象。約6万人が利用している。

 

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