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【暮らし】

精神治療に対話の力 オープンダイアローグ

不登校生徒の家庭が舞台の「オープンダイアローグ劇」を医師らが上演した=東京・汐留で

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 フィンランド発祥の精神科の治療法「オープンダイアローグ」が世界的な注目を集めている。幻覚や妄想の症状がある統合失調症などの患者が、家族、医師、看護師らと共に対話を重ねることで回復がもたらされる−。薬物治療中心の従来の「常識」を覆す手法だ。日本でも対話のガイドラインが作られ、医療現場での実践が始まっている。

 「開かれた対話」と訳されるオープンダイアローグは、一九八〇年代にフィンランドのケロプダス病院で生まれた。主に発症初期の統合失調症が治療対象。患者側の依頼から二十四時間以内に医師、看護師ら専門家チームが患者や家族らとミーティングを開き、症状が改善するまで毎日のように対話をする。

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 この手法の導入で、同国の西ラップランド地方では統合失調症患者の入院治療期間や、服薬を必要とした患者の割合が通常の治療と比べ大幅に減少。予後の二年間の調査でも、再発率は24%(通常治療71%)に抑えられたという。

 「患者本人抜きではいかなる決定もしないというのが最も重要なルールの一つです」。「オープンダイアローグとは何か」(医学書院)の著者で精神科医・筑波大教授の斎藤環さんは言う。

 「専門家が指示し、患者が従う」といった上下関係はなく、皆が対等に発言。幻覚や妄想も詳しく語ってもらい、質問を重ねる。専門家同士が患者について話し合い、本人や家族らが観察する「リフレクティング」という技法も取り込む。

 日本での普及に努める「オープンダイアローグ・ネットワーク・ジャパン」は昨年、実践向けのトレーニングコースを開催した。専門誌の特集も続き、今春には「対話実践のガイドライン」をホームページで公開した。

 日本での導入には課題も多い。薬物治療や長期入院を中心とする従来の治療システムと対立し、保険も適用外。即時対応や継続的な態勢づくりも困難が予想される。

 ネットワークの運営委員で「みどりの杜(もり)クリニック」(東京都)の精神保健福祉士の村井美和子さんは「まずできるところから始めたい」。すでに患者と両親、治療チーム三人の対話を緩やかなペースで続けるケースなどで効果が出ているという。「オープンダイアローグのような対話が当たり前になれば、現代のさまざまな生きづらさが軽減されるのではないか」

◆うつ、引きこもり、不登校にも

 オープンダイアローグは、統合失調症の治療だけでなく、引きこもりや不登校、うつ病など、多岐にわたる領域での応用が期待されている。

 三月に開かれた「関東子ども精神保健学会」の学術集会では、不登校の生徒を抱える家庭を舞台に、現役医師らが対話を行う「オープンダイアローグ劇」も上演された。

 引きこもりの治療への応用を進める筑波大教授の斎藤環さんは講演で「オープンダイアローグの基本にあるのは相手への肯定的態度。教え、導こうという発想を捨てた時、初めて被支援者は救われるという思想がある」と呼びかけた。

 通算十年にわたり引きこもっていた木村ナオヒロさん(34)は、斎藤教授の専門家チームや両親とオープンダイアローグを約半年間行い、社会参加を実現した。「私が受けたオープンダイアローグは、引きこもり当事者の主体性と自発性を回復させるものだった」と振り返っている。

 

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