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【暮らし】

<わが家のケア手帳>やる気を引き出す 小さな夢、逃さず実現

山崎川沿いを散策する宮崎康子さん(右)と燈さん=名古屋市瑞穂区で

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 病気などで体や脳の機能が低下すると、その後も家に閉じこもりがちになる高齢者が少なくない。出掛ける意欲を取り戻してもらうにはどうすればいいのか。7年前にくも膜下出血で倒れ後遺症が残ったが、一人で外出できるまでに回復した高齢女性と、女性のやる気を引き出した家族の話からヒントを探った。 (出口有紀)

 「あそこに咲いてるのは八重(桜)ですよ。すごいご老体(の木)だけど」。四月中旬のよく晴れた朝、名古屋市の桜の名所、瑞穂区の山崎川沿いを、同市天白区の宮崎康子さん(71)と次女の燈(あかり)さん(42)が話しながら、ゆっくり進む。「一人で暗いトンネルを歩いているようだった」と言う燈さんに、康子さんは「今は(トンネルを)抜けたね」と笑いかける。

 康子さんは二〇一一年三月下旬に、くも膜下出血で倒れた。手術をして一命は取り留めたが、その四日後には脳梗塞も発症。右半身のまひや短期的な記憶がなくなる高次脳機能障害などの後遺症が残った。

 三カ月後に退院し、自宅に戻った。しかし、歩幅が狭くなり、自宅から最寄り駅までの歩いて十分だった道のりに、三十分かかるようになった。出掛けると自宅が分からなくなることもあり、一人で外出できなくなった。話したい言葉を探すのにも時間がかかるようになった。「みっともない自分の姿を近所の人に見られたくない」と自宅にこもりがちになった。

 要介護認定を受けられずデイサービスに通えなかったため、同居する燈さんには、仕事と家事、介護という負担がのしかかった。毎日泣いたという燈さんだが「泣くのは自分がかわいそうだから。大事なのは、母のために何ができるかということ」と気付いた。

 燈さんは、自信をなくした康子さんができること、やりたいことを見つけた。テレビを見ていた康子さんが「この絵が見たい」と言えば、遠方でも美術展に行った。燈さんは「やりたいと言ったことはすぐ実現する。本人がやりたいことを見過ごしていることもある。小さな声をキャッチすることはそんなに難しいことではなかった」と話す。

 康子さんが好きなセキセイインコも飼い、毎日、成長ぶりを報告してもらった。「かわいいもののことなら、思い出しやすい。短期記憶の機能の回復に役立つのではないかと思った」と振り返る。康子さんの夫恒さん(70)も毎朝、半ば強制的に散歩に連れだした。先を歩く恒さんを追ううち、康子さんの体力や脚力は回復していった。

 康子さんは「家族が自分の気持ちを大切にしてくれた。外に出て人と話すことで、会話も気にせずできるようになった。一人で出掛けるのは緊張するけど、もう不安はない」と笑う。

◆望まないことは無理にさせない

 日本福祉大中央福祉専門学校(名古屋市中区)専任教員で、老いや介護にまつわる小説を執筆する渡辺哲雄さん(67)は「本人が自発的に『何をしたい』と思って日頃から動かないと、体と脳の機能が衰える。ただ、やりたいことが見つからないからといって、強制してはいけない。自分から『やりたい』と言えるような支援が必要」と話す。

 渡辺さんは若いころから日常的に、新聞などで介護や医療に関する記事を読むことを勧める。「誰もが障害を得て、日常生活や趣味が普通にできなくなる可能性がある。記事を読み、自分ならどうするか考えておくといい」と話す。

◇体験談を募集

 介護する家族が前向きな気持ちになるための知恵、工夫について体験談を募集します。ファクス052(222)5284、メールseikatu@chunichi.co.jp、郵送の場合は〒460 8511(住所不要)中日新聞生活部へ。

 

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