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【暮らし】

<お湯がつなぐ>(4)バイトが縁、老舗を継ぐ 京都・サウナの梅湯

営業前に湯加減を確かめる湊雄祐さん=京都市下京区のサウナの梅湯で

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 浴槽の縁に取り付けられた噴水から出る湯が、ふんわりと弧を描く。晴れた日は、天窓から日光が降り注ぎ、露天風呂さながらの陽気だ。脱衣所からは「また明日」と常連客の明るい声が漏れ聞こえた。

 レトロな雰囲気が漂う京都市下京区の銭湯「サウナの梅湯」。戦前の開業とされる老舗銭湯だ。一時は廃業寸前まで追い込まれたが三年前、学生時代にアルバイトで番台に座ったことが縁で、元会社員の湊雄祐さん(27)=浜松市北区出身=が経営を受け継いだ。

 実家周辺には銭湯がなく、子どものころはなじみがなかったが、高校生のとき、旅行で訪れた横浜市の簡易宿泊所が集まる地域で、銭湯に初めて入り「ローカル色いっぱいでカルチャーショックを受けた」。

 京都市内の大学に進学後、趣味のサイクリングの“シメ”に、銭湯に通い始めた。常連客との密度の濃いふれあいが心地よかった。平成生まれの自分にとっては、昔から継承されてきた銭湯の建物や生活、文化へのあこがれもあった。

 それからは「カフェを巡るよう」に、地図を片手に銭湯を巡った。観光では行かないような場所にある銭湯を訪ね「地域を知る」と、ますます楽しくなった。

 学生時代に足を運んだ銭湯は全国約七百カ所。たまたまアルバイトを募集していた梅湯では二年間ほど働いた。だが、各地を巡る中で、銭湯が廃れていく現状も目の当たりにした。

 「このままでは、銭湯が消えてしまう」。大学を卒業し、就職した後も銭湯に関わりたいという気持ちは消えなかった。そんなとき、梅湯の廃業を聞き付けた。迷わず後継者に手を挙げ、十カ月で退社した。

 運営ノウハウは、知人の名古屋市内の銭湯経営者らから教わり、老朽化した設備は親から借りた約四百万円で改修。接客しやすいように番台をなくしてフロント型に変え、客同士がふれあえるようにロビーを広げた。目指すのは、誰もが気軽に入れて交流できる銭湯だ。鴨川に近い京都の中心地。周囲にゲストハウスが増えたことで、外国人や若い客が集まるようになり、客足は引き継いだ当初の倍以上に伸びた。

 四月中旬の夜、梅湯にイタリアから観光で訪れた通訳者のダニエル・タマーニさん(37)が浴衣姿で立ち寄った。初めて銭湯に入ったのは四年前。最初は大勢の前で裸になることに戸惑ったが、広い湯船に漬かる気持ちよさにすっかり銭湯のとりこになった。「リフレッシュできて気持ちいい」。今は来日するたびに銭湯を訪れている。

 京都市内の大学に通う平手佑樹さん(22)と前田有哉さん(21)は会員制交流サイト(SNS)で梅湯を知り、一年ほど前から通っている。「世代の違う人から仕事の話を聞いたり外国人客と話したりするのが楽しい」と魅力を話した。

 順風満帆のように見える梅湯。しかし、古都は、新参者に温かくはなかった。新しい客が増えた一方、昔からのなじみ客は離れ、常連客を重んじるほかの経営者らからは反発もあった。軋轢(あつれき)に苦しみ、やめようと思ったこともあったが「長く続く日本の文化をどうしてもなくしたくはない」。今後は、別の場所にも広げていきたいと思っている。「僕が諦めない限り、銭湯はなくなりませんから」

 文・花井康子/写真・伊藤遼

 (中日新聞)

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<サウナの梅湯> 京都市下京区木屋町通上ノ口上ル岩滝町175。営業時間・午後2時から午前2時まで。木曜定休。毎週土日は午前6時から正午(最終入場は午前11時半)まで「朝風呂」を開催。入浴料は中学生以上430円、小学生150円、乳幼児60円。10枚つづりの回数券1セット4100円も販売。電気風呂やサウナも。ロビーでは地元野菜や駄菓子などの販売会も(不定期)。設備工事のため6月7日まで休業予定。(問)梅湯=電080(2523)0626

 

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