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【暮らし】

<お湯がつなぐ>(5)「風呂友」の笑い声響く 別府 共同浴場・住吉温泉

いたるところから湯煙が立ち上る別府の街

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 輪投げ大会の後、ビールやジュースで乾杯をし、ちらしずしを囲む。大分県別府市のとある公民館。老人会の寄り合いが一時間半ほどで終わると、集まった十二人が三々五々家に引き揚げた。ところがしばらくすると洗面器片手に戻ってくる人がいる。今度の目的はお風呂。ここ、公民館は二階で、下は温泉なのだ。

 共同浴場「住吉温泉」。この日の一番風呂は永井アサ子さん(86)だった。浴槽のへりに両手をのせ、うつぶせになると、湯船の中で全身を伸ばす。「曲がった腰に効くの」。温泉効果か、お肌はつるつるだ。

 共同浴場は、あちこちで湧き出る温泉を地元の人が共同で使っていたことに始まる。今は市が建物を所有し地区住民が運営する「市有区営」が多く、月千〜二千円ほどの利用料で内風呂代わりに使われている。歓楽街の路地裏にも住宅地の中にもあって、浴場の中にお地蔵さんが祭られていたりする。住吉のような「公民館温泉」も珍しくない。

 同じ時間帯には同じ顔がそろう。いつ来ても、誰かに会える。「名前も知らない人もいるし、深入りはしないけど、ぽろっと愚痴が言えてね。来なかったら心配になるんよ」。常連の六十代の女性によると、これを“風呂友”と呼ぶらしい。

    ◇  ◇

 温泉の湧出量と源泉数で日本一を誇る大分県。中でも別府市は観光客向けの温泉旅館だけでなく、街のあちこちに明治時代からできた共同浴場が点在、市が把握しているだけで今も百十数カ所が残る。ただ運営役員の高齢化や施設の老朽化、利用者の減少などで四十年ほど前と比べると三分の二ほどに減っている。

 住吉温泉も二〇一六年十一月、経営難でいったん閉鎖を余儀なくされた。

 「子どもの頃から当たり前にあったけんね。何とか復活させようって」。昨年五月の営業再開を支えた菅裕之さん(66)が言う。

 再開後は菅さんたち有志四人がボランティアで鍵や入浴料の管理、見回りなどを担うことにして番台は廃止。懸案だった毎日の浴槽清掃は地元のNPO法人が安く請け負ってくれた。

    ◇  ◇

 市中心部では、一六年四月の熊本地震の影響で解体された「梅園温泉」の再建計画が進む。一九一六年創業、ネオン街の細い路地の先に突如現れる路地裏の名湯を惜しむ声は県外にも多く、募金や市の貸し付けで年内再開を目指している。

 計画に協力するNPO法人「別府八湯温泉道名人会」は、別府の温泉八十八カ所を巡り「温泉名人」の称号を手にした愛好家たちの団体。もともと温泉の良さを広く伝える活動が主体だったが、昨年から閉鎖の危機に陥った「寿温泉」の運営も引き受けている。住吉温泉の清掃を請け負ったのも会だ。

 常駐しなくてもスマートフォンでいつでも出入り口を確認できる防犯カメラを設置する。学生に勉強しながら番台に座ってもらうためのWi−Fi(ワイファイ)環境を整備する。少ない人手で効率的に運営できる仕組みを模索している。

 湯がいつも人の暮らしと共にある−。「地元にとっての『当たり前』のすばらしさは、外から来た者の方が気付く部分もあると思う」と十七年前からこの地に住む理事長の佐藤正敏さん(46)。それぞれの思いが、湯の街の風情を支える。

  文・写真 斉藤幸奈

  (西日本新聞)=おわり

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<住吉温泉> 大分県別府市松原町18の23。午後4〜10時45分、一般利用は市内在住者が1回100円、それ以外は200円。梅園温泉(別府市元町5の23)の募金に関する問い合わせは再建委員会会長の平野芳弘さん=電0977(23)4748。共同浴場全般については別府市温泉課=電0977(21)1129=へ。

 

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