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【暮らし】

<Life around the World> 都会に緑の恵みを

 林立する高層ビルに、ひっきりなしに行き交う車。都会は刺激と活力にあふれるが、時に憩いたくなるもの。広い庭を構えにくい日本では、屋上庭園や緑のカーテンなども人気だ。グリーンが鮮やかな季節になった。都市住民はどう身近に緑を取り入れているのだろう。

貨物鉄道の枕木やレールの一部をそのまま生かしたハイライン

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◆米国 廃線鉄道、憩いの庭に

 ビルの谷間を縫うように新緑の小道が走る。五百種を超える草木で彩られた米ニューヨーク・マンハッタンの線形公園「ハイライン」。深型のスプーンを描くような二・三キロの高架橋には一九三〇年代から八〇年まで、食肉や産業資材を運ぶ貨物鉄道が通っていた。

 ニューヨーク市が所有し、市民らでつくる非営利団体が管理運営する。鉄道時代の枕木やレールの一部をそのまま残し、自生する草木の姿に着想を得たという自然美を生かしたデザインが、摩天楼の足もとに落ち着きを醸し出している。

 草木は五百マイル(約八百キロ)以内での調達が目標。輸送時の二酸化炭素排出量を減らし、環境や気候に合った在来植物を選ぶためだ。「場所固有の条件に注意することが最も大事」と植栽を統括するアンディ・ペティスさん(41)。こうした考えは家庭の花壇にも応用できる。「自生植物を一定程度残せば、ダイナミックに見えるし、植物を育てる適所も分かる」

地上9メートルの高架橋を生かした線形公園。周辺開発も進んでいる=いずれもニューヨークで

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 日暮れ時。人々はハドソン川へ沈む夕日を西に眺め、明かりがともり始めたビル群の威容を東に仰ぎ見る。二〇〇九年から順次開放された公園は、多い日に六万人以上が足を運ぶ人気ぶり。沿線のあちこちでビル建設の槌音(つちおと)が響いている。

 とはいえ、廃線後は忌避される存在になっていた。高架下で繰り広げられた違法薬物の密売や買売春…。当時を知るジェローム・アンダーソンさん(48)は「日が暮れたら近づけない地域だった」と振り返る。

 それが今では「四季を通じて楽しめる場所」とアンダーソンさん。お気に入りは木陰。「旅行者を見ていると、自分もちょっとした旅行気分を味わえるんだ」

 大都会の物流を支えた鉄道は、不遇の時を経て、安らぎを届ける憩いの庭へと変貌を遂げた。

 (ニューヨーク・赤川肇、写真も)

娘のゼリアちゃんと木の枝で柵をつくるクレブスゲルリッヒさん=ベルリンで

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◆ドイツ 貸庭園はパラダイス

 緑まぶしい庭園と、隠れ家みたいな小さな別荘−。そんな都市住民のあこがれを実現できる空間がベルリンに点在している。

 貸農園に別荘を足したような「クラインガルテン(小さな庭)」。4年前から1区画分を賃借しているアネッテ・クレブスゲルリッヒさん(45)は「アパートにはベランダも庭もない。ガーデニングをするのが夢だった」と語る。

 自宅と勤務先のショッピングセンターを地下鉄で往復する日常を離れ、庭いじりに没頭するひとときはかけがえのないものという。

 自宅から自転車で30分。250平方メートルの敷地に小屋が1棟。市の土地で、年間の家賃は100ユーロ(約1万3000円)。規則を守れば思い通りに庭を仕立てられる。1区画空きが出れば200人が申し込むという人気だ。

 クレブスゲルリッヒさんの庭ではゼラニウムやライラックが開花。時季によってリンゴ、ナシ、プラム、イチゴなどの果物もとれ、ジャムにして保存する。

 細い通路を挟んだお隣には、野菜ばかりつくる人、子どもの遊具を充実させる人、しょっちゅうパーティーを開く人などさまざま。

 こうした区画が集まる一帯は「クラインガルテンコロニー(小さな庭の集落)」と呼ばれる。クレブスゲルリッヒさんのコロニーは2500区画が集まる国内最大級の広さという。

 もとは、19世紀の医師シュレーバーが産業の発展で急速に人口過密となった都会の子どもに自然と触れ合う機会をつくろうと提唱して始まった。第1次、第2次大戦中は果物が不足して存在が見直され、戦後は住宅不足のため仮の宿として重宝された。オーストリアやスイスにも広まった。

 娘のゼリアちゃん(10)を連れ、週に5日も通いつめるクレブスゲルリッヒさんの熱中ぶりを見ると、シュレーバーの先見性は大いにたたえられる。 (ベルリン・垣見洋樹、写真も)

博覧会でヘチマやカボチャ、キュウリなどで作られたトンネル=宜蘭県冬山郷で

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◆台湾 ベランダが「お花畑」

 害虫を食べるアヒルを放し飼いにした水田、キュウリやカボチャが垂れ下がる緑のトンネル、流木などで作ったオブジェ−。

 台湾東部、宜蘭(ぎらん)県の冬山郷で「宜蘭緑色博覧会」(グリーンエキスポ)が三月末から五月十三日まで開かれた。十九回目となる今年は「エコ活動の実践が最大のテーマ」(蕭麗芬(しょうれいふん)・蘭陽農業発展基金会副執行長)で、広大な会場では環境に配慮した展示が目立った。

 案内してくれたボランティアの王さん(65)によると、入場料は百台湾元(約三百七十円)だが、電車で来た人は無料。まさにエコ実践の奨励だ。

 家庭緑化もエコの一つだが、「宜蘭では庭のある家が多いから、もともと緑化している。問題は大都市でしょうね」と言う。台湾の人口の七割は台北など六大都市に集中。その大部分が集合住宅だから、家庭緑化には無縁?

台北で週末開かれる花市。あれも、これも−。市民の購買欲は旺盛だ

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 だが、マンションの住民の多くは実は家庭緑化に熱心だ。窓際には草花の鉢がいくつも並び、一階の道路際にも大きな植木鉢。その草木は「週末花市」で買うのが一般的。台北では、土日限定で開く高架下の駐車場を利用した花と植木の市に店百軒以上が並ぶ。たくさんの白い小さな花の「夜来香」、強い香りの「七里香」。観賞用だけでなく、匂いで蚊よけとなる「防蚊草」もある。

 「これは一鉢百元。三つなら二百五十元でいいよ」「二百元にしなよ」−。あちこちで値段の交渉だ。子どもの背丈ほどある深紅のブーゲンビリアを前にやりとりしていた男性(40)は結局、二千元(約七千四百円)で手を打った。「これは庭に置くの?」と聞くと「いやベランダ」。「でも大きくなるでしょう?」「そしたら大きな鉢に植え替える。狭いベランダはいろんな鉢でぎっしり。女房が花が好きだから」。夕暮れの市場は両手に鉢入りのビニール袋をぶら下げた市民でいっぱいだった。

 (宜蘭県冬山郷・迫田勝敏、写真も)

 

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