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【暮らし】

「人間対人間」の関係 大切に 卵巣がん患い 利用者目線で考える COML理事長・山口育子さん

「やりがいと楽しさで、疲れは感じません」と話す山口育子さん

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 利用者目線の病院評価や講座開設などの活動を三十年近く続ける認定NPO法人COMLの理事長山口育子さん(52)。この道に入ったきっかけは卵巣がんだ。短命を覚悟したが「まだ果たすべき何かがあるはず」と踏み出した一歩が、人生を変える出会いにつながった。全力投入できる仕事に導いてくれた病気に「感謝しかない」と話す。(聞き手・吉本明美)

 卵巣がんの診断は、再発も含め三回受けました。最初は一九九〇年、二十四歳の時です。

 下腹部の痛みと不正出血で受診したら、左の卵巣が大きく腫れていて手術が決まりました。主治医はがんを疑っていたようですが、私への説明は一切ありません。さらに手術予定の二日前、卵巣が破裂してしまったんです。

 激痛に襲われ、手術を受けたのですが、その後も説明は全くなし。両親は「三年生きる確率は二割ありません。本人が知ったら立ち直れない。隠し通してください」と口止めされたそうです。

 別の医師からがんを聞き出しましたが、主治医は八カ月後にがんが再発し新たに抗がん剤治療を行う際にも、病名を明かしません。

 どう生きるかは自分で決めたい。病状をありのまま知り、納得して治療を受けたい。何度そう訴えても、主治医の理解は得られませんでした。

 長く生きられそうもないことは覚悟しましたが「生きた実感を得ることは成し遂げていない」とも思っていました。

 そんな時、新聞で「賢い患者になりましょう」を合言葉にCOMLを創設した辻本好子(故人)のインタビュー記事を読みました。活動の理念に共感し、思いを託した手紙を書いたことから、辻本に「一緒にやろう」と誘われました。

 九二年にCOMLスタッフとなり「患者と医療者のコミュニケーション講座」など、相互理解のための活動を充実させてきました。

 直近の卵巣がん診断は二〇一一年、進行胃がんになった辻本が終末期の闘いをしている最中でした。彼女が昏睡(こんすい)状態になった翌日が私の入院日。「早く治してCOMLを継続させる」と決意し、手術を受けました。がんの悪性度は低いという診断でした。

 COMLを引き継いで七年。私たちの財産の一つは患者からの六万件近い電話相談です。うち二万件以上は私が受けました。

 こうした実績を背景に「患者や市民の立場で医療への意見を」と求められる機会が増えました。賢い患者と、良い医療の実現に貢献できる市民を増やすのが生かされた私の役目。そう考え、昨年から新しい講座も始めました。

 辻本の闘病を支えて気付いたことがあります。がん経験がある者同士でも、患者は一人一人全く違う。他者の経験は参考になるけれど、生き方や病気との向き合い方はその人だけのもの。だから患者と医療者が「人間対人間」という基本に立ち戻り、関係を築くことが大切なんだと思います。

 <卵巣がん> 子宮の左右に一つずつあり排卵などの機能を担う卵巣にできるがん。四十〜六十代に多い。初期はほとんど症状がないため進行して見つかることが珍しくない。治療の基本は開腹手術。進行度などに応じて術後抗がん剤治療が行われる。

 <やまぐち・いくこ> 1965年大阪市生まれ、大阪教育大卒。2011年COML2代目理事長に。16年認定NPO法人化。国の審議会など医療関係の90以上の会議で委員を務め、市民の立場で政策提言を続ける。17年には市民側委員を養成する新講座も開設した。

 

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