東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 暮らし > 暮らし一覧 > 6月の記事一覧 > 記事

ここから本文

【暮らし】

<守って子どもの命 遺族たちの願い> (上)幼稚園のプール

幼稚園のプールで溺れて亡くなった伊礼貴弘ちゃん。母親の利奈さんは「同じ事故を繰り返さないで」と訴える=神奈川県大和市で

写真

 神奈川県大和市の伊礼利奈さん(43)の携帯電話がなったのは、正午前だった。二〇一一年七月十一日。「たかちゃんが、意識不明です」。長男の貴弘ちゃん=当時(3つ)=が通う幼稚園からの電話だった。

 貴弘ちゃんはプールの授業中、うつぶせで浮いているのが見つかった。外出先から救急病院に駆けつけると、医師四人が交代で貴弘ちゃんに心臓マッサージをしていた。「たっくん、起きて」。呼び掛けても返事はない。約一時間半後、貴弘ちゃんは亡くなった。

 翌日、貴弘ちゃんは司法解剖され、解剖医が肺に多量の水がたまっていたことを教えてくれた。「溺れたことに気付かれるのも遅かったし、気付いてからも遅かった」。園の不注意で貴弘ちゃんが溺れ、発見や救命が遅れたことを示唆する内容だった。

 伊礼さん夫婦は園に何が起きたのか説明を求めた。だが事故当時の状況は教えてもらえず、不信感が募った。事実が少しずつ明らかになったのは、業務上過失致死罪で起訴された元担任と元園長の裁判が始まってから。貴弘ちゃんの死から二年以上が過ぎていた。

 プールは直径約四メートル、水深約二〇センチ。当日、二クラスの園児二十九人が遊ぶのを教諭二人が見守っていた。貴弘ちゃんの担任は四月に教諭になったばかりの新人だった。

 事故が起きたのは、別のクラスと教諭がプールから引き揚げた後、担任がプールの端で園児らに背を向けて浮輪などを片付けていた時。先に上がった教諭が、うつぶせで浮いている貴弘ちゃんを見つけた。

 担任は貴弘ちゃんを引き上げたが、呼び掛けに反応はなかった。園は救急車を呼ばず、職員が近くの病院に貴弘ちゃんを抱きかかえて走った。既に心肺停止状態。病院が救急車を呼び、貴弘ちゃんはようやく救急病院に搬送された。

 裁判では、園の管理責任も問われたが元園長は無罪に。新人教諭に授業を任せ、監視者を置かなかったことは「当時の状況として合理性を欠くものではない」との判断だった。

 しかし、事故が実際に起きたという事実は重い。

 伊礼さんの求めで調査を始めた国の消費者安全調査委員会(消費者事故調)は、一四年にまとめた検証結果で、指導を新任教諭一人に任せたのは配慮が不十分で、園が救急車を呼ばず、胸骨圧迫などの救命措置を行わなかったことが貴弘ちゃんの死亡につながったと指摘。内閣府などは一六年、指導者とは別にプールの監視者を置くよう促す安全対策のガイドラインを通知した。

 しかし、事故の教訓が生かされたとは言いがたい。監視者の設置は義務ではなく、事故調が昨年全国五千の幼稚園や保育園などを対象にした調査では、回答した約二千七百園のうち百七十九園が「監視に専念する職員がいない」と回答。13%はガイドラインさえ知らなかった。

 対策が進まない中、悲劇は繰り返される。

 昨年八月にはさいたま市の保育園で、四歳の女児がプールで溺れて死亡した。園児計二十人を二人の保育士が見ていたが、一人がプールから離れ、もう一人が遊具の滑り台を片付けるために数分、目を離した隙に起きた事故だった。

 伊礼さんは訴える。「事故を防ぐ方法は分かっている。なのに、去年もまた子どもが亡くなってしまった。プールには必ず監視者を置いてください」

     ◇      

 同じような状況で子どもが亡くなる事故が繰り返されている。縦割りの行政組織で、情報共有や原因分析が進まないことも一因だ。「わが子の死を教訓にして子どもを守ってほしい」−。再発防止を訴える遺族たちの思いを追う。 (細川暁子)

 

この記事を印刷する

東京新聞の購読はこちら 【1週間ためしよみ】 【電子版】 【電子版学割】

PR情報