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【暮らし】

<守って子どもの命 遺族たちの願い> (下)解明進まぬ事故原因

勉強会で子どもの死亡登録・検証制度の必要性を訴える松田容子さん(左端)と、吉川優子さん(右端)=東京都内で

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 「娘はなんで死んだの? 何があったの? その疑問からずっと抜けられない」。横浜市の松田容子さん(49)は言う。小学六年生だった長女の伶那(れいな)さん=当時(12)=は、二〇一三年二月、通っていた私立小学校のスキー旅行で訪れていた長野県の宿泊施設の前で突然倒れた。午後三時すぎに、友達とそり遊びをしている時だった。

 午後四時ごろ松田さんは学校から連絡を受け電車で現地に向かった。「もう助かる見込みはない。蘇生措置をやめていいでしょうか」。途中で医師からも電話があった。「助けてください」とすがったが、「続けても伶那さんが苦しむだけです」と言われ承諾した。午後九時ごろ、病院で伶那さんの遺体と対面した。手を握るとまだ温かかった。

 司法解剖は行われず、死亡診断書の死因は「心不全」。死因の種類は「病死及び自然死」に丸が付けてあった。学校は事故が起きた時の状況を詳しく教えてくれなかった。倒れた時、宿泊施設には心臓に電気ショックを与えて救命する自動体外式除細動器(AED)がなく、約一キロ離れた別の宿から借りてきてAEDが使われたと知ったのは半年後。松田さんが学校に質問書を送り、返ってきた回答書でやっと分かった。

 「学校の安全管理体制は適切だったのか」。不信感から弁護士にも相談したが「裁判で勝つ見込みはない」と言われた。「ただ、事実を知りたいだけなのに」。むなしさが募った。

 神奈川県鎌倉市の吉川優子さん(46)も同じ苦しみを経験した。吉川さんは一二年七月、一人息子の慎之介ちゃん=当時(5つ)=を、当時住んでいた愛媛県内の私立幼稚園のお泊まり保育中の事故で亡くした。慎之介ちゃんは川遊び中に水に流され死亡。園は救命道具を用意していなかった。

 吉川さんは県に事故原因の調査や園への指導を求めたが「私立幼稚園の運営は自主性に任せているので、監督や指導はできない」と言われた。文部科学省にも資料を送り対策を求めた。だが答えは「園を認可しているのは県なので対応できない」。国の消費者安全調査委員会(消費者事故調)にも訴えたが「川遊びは消費サービスに該当せず対象外」と取り合ってもらえなかった。子どもの事故情報の一元化や安全対策を阻んでいるのは縦割り行政だと実感した。

 松田さんと吉川さんは一六年にネットを通じて知り合った。伶那さんも慎之介ちゃんも司法解剖されておらず、二人とも「解剖されていれば、正確な死因や何があったか知る手掛かりを得られたのでないか」と感じている。米国など海外には死亡診断書などを基に、子どもの死亡事例を登録して原因を検証する「チャイルド・デス・レビュー(CDR)」があることを知り制度化を目指す活動を始めた。

 吉川さんらは五月、千葉大法医学教室の岩瀬博太郎教授らを招いてCDRの勉強会を開いた。岩瀬教授によると、警察は子どもの事故が起きても事件性がないと解剖を行わず、死因があいまいになることが多い。背景には、解剖医不足に加え「子どもの遺体を傷つけてほしくない」と願う遺族への配慮もある。だが岩瀬教授は「犯罪の見逃しや事故の再発を防ぐために十八歳以下の子の解剖はすべて行い、死因を究明するべきだ」と主張する。

 厚生労働省の研究班も昨年から、CDR導入に向けて調査を開始。吉川さんらも法制化を求め与党議員に面会するなど実現に向けて動きだしている。

 吉川さんは訴える。「子どもを事故で亡くす経験は、もう誰にもしてほしくない。わが子の死を無駄にせず他の子を守るために国の検証制度を作ってほしい」

  (細川暁子)

 

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