東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 暮らし > 暮らし一覧 > 6月の記事一覧 > 記事

ここから本文

【暮らし】

<食卓ものがたり>伝統に新風、膨らむ魅力 曲げわっぱのおひつ(秋田県大館市)

曲げて重ね合わせた部分の接着をする柴田昌正さん。12人いる職人には若手や女性も=秋田県大館市の柴田慶信商店で

写真

 すがすがしい木の香りが漂う工場(こうば)に、十二尺(約三・六メートル)もの杉の木材が何枚も立て掛けられていた。秋田県大館市で「大館曲げわっぱ」を作る柴田慶信(よしのぶ)商店。代表取締役で伝統工芸士の柴田昌正(よしまさ)さん(44)は「こんな長い木材を仕入れるのは、良い部分を選べるから。家でも建てるのかと言われます」と笑った。

 曲げわっぱは、薄板を曲げて作った円筒形の容器。ベテラン職人でやはり伝統工芸士の武田成一さん(63)は「節があったり、目が曲がっていたりする部分は、曲げると折れてしまう」と部材の切り分けに注意を払う。その後も曲げ加工や底入れなど昔ながらの手法が続く。昌正さんは「サイズを小さくした以外、デザインなど伝統的なものと変わりません」と話した。

 大館で曲げわっぱ作りが盛んになったのは十七世紀後半。天然の秋田杉は寒さのため成長がゆっくりで年輪が細かく、曲げても折れにくい。杉の白木は抗菌作用があり、ご飯の余分な水分を吸うため、昌正さんは「うちではおひつや弁当箱などは無塗装。冷やご飯が本当においしい」と胸を張る。

 長い歴史を持つ大館で、同商店の創業は比較的最近だ。昌正さんの父慶信さん(77)が二十四歳の時、もの作りに携わりたいと独学で製作を始めた。大きく前進したのは、一九八〇年に大館曲げわっぱが、国の伝統的工芸品に指定された頃。慶信さんの工場が、著名な工業デザイナーやクラフトデザイナーを迎えての勉強会の会場になったのだ。

 「新しいことを吸収しようとした父が選ばれたのでしょう」と昌正さん。この時に習得した「ろくろ」で木を削る技術が、人気商品となるおひつを生んだ。「お客さんに『おひつの底の隅のご飯が取れない』と言われ、隅をろくろで丸く削ったんです」。曲げわっぱと底板を組み合わせた後、ろくろで内側を滑らかに削って仕上げる。手間も技術も求められる工法だ。

 使い手の声を直接聞く姿勢は、昌正さんにも受け継がれている。デパートの実演販売などで客の感想や要望を聞き、親子で生み出した商品は約二百五十種類。作り手と使い手のつながりが、伝統に新たな魅力を加え続けている。

 文・写真 竹上順子

写真

◆買う

 柴田慶信商店の曲げわっぱは、大館市の本社のほか浅草店(東京都台東区)、日本橋三越本店(同中央区)で買うことができる。おひつ(2合用)3万円=写真、小判弁当箱(容量約400ミリリットル)8000円など(税別)。名古屋市中区の松坂屋名古屋店で開かれている「日本の職人展」では、7月3日まで実演販売を行う。(問)同商店=電0186(42)6123

 

この記事を印刷する

東京新聞の購読はこちら 【1週間ためしよみ】 【電子版】 【電子版学割】

PR情報