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【暮らし】

母のエプロン1枚買えず 成年後見制度、第三者関与に難点

母親が使っていた食べこぼしの汚れを防ぐためのエプロン。女性は「これも母のお金では買えなかった」と話す=名古屋市内で

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 判断能力が不十分になった認知症や障害者の人を保護、支援する成年後見制度。利用者本人の権利や財産を守る制度だが、そのためにかえって家族や親族が望む支援ができなくなるケースもある。 (出口有紀)

 「母が食べこぼすのでエプロンを買いたいと言ったら、母の後見人だった弁護士に『だめ』と言われた」。名古屋市内に住む五十代の無職女性は、昨年亡くなった母を、悔しさを感じながらしのぶ。

 女性の母親は二〇〇九年、七十代後半のときに認知症と診断された。階段から落ちたり夜中に騒いだりと、目が離せないようになり、女性が仕事を退職して面倒を見ることに。翌年、自宅近くのグループホームに入居したが、しばらくして首や手首にあざができ、太ももを骨折していることも判明。女性は母親を市内の別の施設へ移した。

 虐待を疑った女性は、グループホームに対する損害賠償請求を検討。市内の弁護士に相談すると「母親は判断能力が落ちているので訴訟は起こせない。成年後見制度を使って、後見人に娘さん(女性)がなり、後見人が提訴するしかない」と言われた。

 一四年夏、名古屋家裁に制度の利用を申し立てると一カ月後、家裁から見知らぬ弁護士が後見人になったとの知らせを受けた。報酬は月二万円だった。その弁護士は「今、娘さんの財布にあるお金もお母さんの財産なので没収する。家の光熱費も娘さんが払ってほしい」と、女性に働いて収入を得るよう求めた。

 女性は親族に相談し、当面の生活費を出してもらったが、後日、最初に訴訟について相談した弁護士が家裁と交渉。母親の財産から月十五万円が支出されることになった。

 後見人への不信感は最後までぬぐえなかった。後見人と話すのも苦痛で、提訴も諦めた。母親の下着の購入費などを出してほしいと、後見人に言っても「だめ」と即答された。「母に十分なことができなかったという思いが残っている」と話す。

◆後見人の7割、弁護士など

 成年後見制度の利用促進を検討する日弁連のプロジェクトチームに参加する熊田均弁護士(63)は「制度は『個人の財産を守る』という発想だが、弊害もあり、家族の不満もある」と指摘する。背景には、第三者の弁護士らが後見人になるケースの増加がある。

 二〇〇〇年の制度開始直後は、後見人に親族がなるのが九割だったが、昨年は弁護士ら第三者が七割。「親族が財産を着服する事案が相次ぎ、裁判所が親族を選びたがらなくなっている」と熊田弁護士は説明する。

 ただ、弁護士が本人の生活や介護の状況を細かく把握することは難しい。熊田弁護士は「親族が後見人になる方が適切な場合もある。親族の後見人ができない部分を弁護士などに頼む形がいいのでは」。

 国も一七年三月にまとめた利用促進の基本計画で、裁判所、地域の福祉関係者らによるチームが、後見人と一緒に本人を見守る体制を整備することを明記。各地域に個々のチームを支援する中核機関を置く。熊田弁護士は「本人と後見人の一対一の関係には無理がある。後見人が音頭を取り、本人を支えるチームをつくるのが理想的だ」と話す。

<成年後見制度> 認知症や知的、精神障害などで判断能力が不十分になった人の契約や財産管理などを支援する。判断能力が低下した場合に利用する「法定後見制度」と、判断できるうちに、どんな援助を誰がするのか決めておく「任意後見制度」がある。法定後見制度では、後見人は家庭裁判所が選任し、家族のほか、弁護士や司法書士ら法律の専門家がなることが多い。本人の財産からの支出などについて年1回、家裁に報告する。

 

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