東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 暮らし > 暮らし一覧 > 7月の記事一覧 > 記事

ここから本文

【暮らし】

認知症の人に優しい図書館 背景にトラブル増加、各地で取り組み

図書館のカウンターで山田真由美さん(左)に貸出券の使い方などを説明する鈴木崇文さん=名古屋市西区で

写真

 認知症の人が利用しやすい図書館を目指す取り組みが広がっている。図書館は高齢者の利用が多く、認知症が原因とみられるトラブルも増加傾向。しかし「認知症の人が利用しやすくなれば、全ての人が気持ちよく使える」と、職員が声の掛け方を学んだり、提供できるサービスを見直したりする図書館が増えている。 (出口有紀)

 本に向かって伸ばした手が戸惑ったように宙を漂う。「手をここに置くと、本が取れるかな」。名古屋市西区の若年性認知症がある山田真由美さん(58)は、自分自身にアドバイスするようにつぶやいて本の背表紙の上に手を置き、ゆっくり本を棚から取り出した。同区の市山田図書館で職員向けに開かれた認知症サポーター養成講座での一幕だ。山田さんは、認知症があるとどんなことに困るのか、職員約十五人に話した。

 山田さんは七年前にアルツハイマー型認知症と診断された。認知症というと、物忘れなどの症状を思い浮かべるが、空間を認識する力が低下し、手を伸ばしてもスムーズに物をつかめなくなることもある。山田さんは「本の背表紙は読めて、欲しい本がそこにあると分かる。なのに手に入れられないのは、すごく疲れます」と、苦労を語った。

 ともに話をした市認知症相談支援センター職員の鬼頭史樹さん(37)は「外見では認知症の人か判断できないが、困っている人に『本を取りましょうか』と声を掛けるのは難しくない」と支援の仕方を提案した。

 講座を開いた背景には、認知症によると思われるトラブルが増えていることがある。企画した同館職員の鈴木崇文さん(42)は、何度も貸し出しカードを作りに来る人や、本の返却を求めると「借りた覚えがない」と言う人への対応に困ったことがあるという。こうした例は「五年前より増えている」と実感している。

 返却をめぐって困った時は、ゆっくり利用者の話を聞き、本のタイトルを伝えたり、一緒に本棚に行ったりして記憶を呼び起こす。「話すうちに思い出してもらえる。性急に『何で返さないのか』と聞くことはしない」という。

 山田さんは字が書けない症状があるためカードが作れず、鈴木さんが申込書を代筆した。行が変わると読み進められなくなる症状もあり、朗読サービスも利用するつもりだ。職員もサービスの対象は視覚障害者だけと思っていたが、山田さんも受けられると分かった。「他の図書館の人と話しても、認知症の人への対応が話題になる。全職員で対応を考えたい」と話す。

 講座には、市内の介護事業所の職員らでつくる「認知症に優しいまちづくり実行委員会」も協力した。昨年から同市南図書館などとも同様の取り組みを展開している。委員長でケアマネジャーの大河内章三さん(33)は「図書館は高齢男性の利用が多く、職員に声掛けの仕方などを学んでもらえば、利用者を地域の高齢者サロンにも誘導できる」と期待する。

 こうした動きは各地で始まっている。一七年に「認知症にやさしい図書館ガイドライン」をまとめ、ホームページで公開している筑波大の呑海(どんかい)沙織教授(図書館情報学)は「図書館は福祉、介護施設でないと言う人がいたり、当事者や家族にも『利用したら迷惑になる』と考える人がいたりする。そういう考えをなくしたい」と話す。

 ガイドラインは、図書館を「地域包括ケアシステム」を支える一つの施設に位置付ける。認知症に関する資料の提供や講習会の実施、認知症の人や家族を医療や福祉につなげることなどを役割に挙げた。「例えば、利用者が家に帰れなくなった場合の対応が職員によって違わないよう、各図書館で地域の特性に応じた指針をつくることも必要」とする。

 

この記事を印刷する

東京新聞の購読はこちら 【1週間ためしよみ】 【電子版】 【電子版学割】

PR情報