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【暮らし】

注射で治す椎間板ヘルニア 半世紀かけ新薬開発 主要病院で来月から実施

研究の思い出を語り合う松山幸弘・浜松医科大教授(左)と、岩田久・名古屋大名誉教授=浜松市の浜松医科大で

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 腰椎椎間板ヘルニアのつらい症状を注射により軽減する世界初の治療が三月に承認され、八月から学会認定医のいる病院で受けられるようになる。痛みが長く続き、手術しか治療法がなかった患者にとっては、体への負担が少ない選択肢の登場は、大きな朗報だ。 (編集委員・安藤明夫)

 腰椎椎間板ヘルニアとは、老化やけがにより、腰椎の椎間板に亀裂が入り、内部の軟組織(髄核)がはみ出す状態のこと。周辺の神経を圧迫し、痛みや足のしびれなどの症状が出る。患者数は百万人とも推計され、多くは消炎鎮痛剤や神経ブロック治療の保存療法で回復する。自然治癒する例もある。しかし、数カ月たっても症状が改善しない場合は、手術でヘルニア塊を摘出するしか方法がなかった。

 新治療薬は、一般名コンドリアーゼ。椎間板の中に針を刺して注入すると、酵素の作用で、髄核内の多糖類が分解される。それにより、髄核の保水力が減少し、椎間板の内圧が下がることで、ヘルニアが収縮する。局所麻酔で一度の注射をするだけで、二週間以内に効果が表れることが多い。体への負担は小さく、安全性も高い。

 治験を担当してきた浜松医科大整形外科の松山幸弘教授は「保存療法を続けても痛みが取れず、治療の適応となるヘルニアがMRIで確認できた場合に実施できる。正しい診断と、髄核に的確に針を刺せる経験が必要で、最初の一年間は設備の整った医療機関で、経験のある指導医が治療を進めていく」と話す。

 松山教授が副理事長を務める日本脊椎脊髄病学会と、脳外科領域の日本脊髄外科学会の認定する指導医がいる病院や専門クリニックで治療が受けられる。

      ◇

 この治療薬の土台になったのは、名古屋大名誉教授の鈴木旺(さかる)さんらが約五十年前に土の中の微生物から抽出・精製した「コンドロイチナーゼABC」という酵素。当時、鈴木さんの教室で研究生として学んでいた岩田久さん(80)=名大名誉教授=が、この酵素を使ったヘルニア治療薬の開発に取り組んだ。基礎研究を経て、名大整形外科教授時代の二〇〇〇年から治験を開始。その医局員だった松山教授らが受け継いだ。

 治験は当初から好成績を上げていたが、酵素を精製するための基準の作り直しなどに時間がかかり、十八年かけて承認にこぎ着けた。製造販売する製薬会社「生化学工業」(東京)は海外の製薬企業ともライセンス契約を結んでおり、日本発の治療薬は米国でも販売が始まる予定。松山教授は「頸椎(けいつい)ヘルニアの治療にも応用できそう。脊椎損傷の治療にも役立つ可能性があり、さらに研究を進めたい」と意気込む。

 今も臨床医を続ける岩田さんは「名大整形外科教室の同僚たちとともに長年進めてきた研究がようやく実を結び、うれしい限り。さらなる発展を期待したい」と話す。

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