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【暮らし】

<わが家のケア手帳>昔を思い出す 「人生の宝物」に笑顔

夫婦の思い出の品を眺める早川峯夫さん(左)と幸子さん=岐阜県中津川市で

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 あどけなく笑う孫の写真、夫婦で行った海外旅行のおみやげ−。岐阜県中津川市の早川幸子さん(76)は、夫の峯夫さん(84)が認知症になってから、二人にとっての思い出の品を自宅のあちらこちらに飾るようになった。怒りっぽくなっていた峯夫さんが穏やかになり、介護する幸子さんの気持ちも楽になっている。 (河郷丈史)

 峯夫さんは、六年ほど前から幸子さんに何度も同じことを聞くなど、物忘れが目立つようになった。若いころから温厚な性格だったが、認知症になってからは少しのことでも腹を立てるようになり、幸子さんが服装の乱れを注意すると、かんしゃくを起こすように。幸子さんも、とげのある言葉を浴びせてしまうこともあった。

 幸子さんは、峯夫さんを喜ばせて少しでも状態を良くしようと、古い家族写真をA4判ほどに引き伸ばして印刷し、居間の峯夫さんの席に飾ってみた。今では大学生になった孫たちが幼いころ、峯夫さんが畑で育てたスイカをかじったり、テーブルいっぱいに広げた夏野菜を囲んだりしている写真だ。峯夫さんは「こんなことがあったんやなあ」と、うれしそうな表情を浮かべた。

 そんな峯夫さんを見て、幸子さんは孫たちが描いた絵や、夫婦で南米やヨーロッパを旅行したときのおみやげ、趣味の弓道の大会で峯夫さんが獲得したトロフィーなど、思い出の品を次々に引っ張りだし、壁や棚に飾った。峯夫さんも、孫が遊んでいたおもちゃなどをどこからか見つけ出し、飾るのを楽しむようになった。「まるで幼い子どもが宝物を飾るみたいで、幸せそうだった」

 現在は、思い出の品百点ほどが壁や棚を埋め尽くしている。夫婦で眺めては、当時のことを思い出して会話する。「少しでも夫の笑顔が増えると、私もその分、気持ちが楽になる」と幸子さん。夫婦の人生が詰まった宝物が並ぶ自宅を、二人は「わが家の小さな美術館」と呼んでいる。

◆長期記憶に目を向けて

 介護する家族の心理に詳しい渡辺医院(群馬県高崎市)院長の渡辺俊之さん(59)に、幸子さんの工夫について聞いた。

        ◇

 認知症になっても、家族と過ごした昔の思い出など、頭に深く刻み込まれた「長期記憶」は保たれていることが多い。

 新しいことを覚えられない認知症の人にとって、過去の記憶はアイデンティティーを支えるものになる。記憶には、喜びや懐かしさなどの感情が結び付いている。思い出の品を見て当時を思い出すことで、アイデンティティーが守られ、良い情緒も引き出される。そんな姿を見ることで、家族も救われる。

 だが、介護に追われる家族の多くは「さっき言ったばかりなのに、なぜ分からないのか」などと、つい先ほどのことを覚えていないことばかりに焦点を当ててしまいがちだ。それが介護ストレスの大きな要因になっている。意識して長期記憶に目を向けると、状況が変わってくる可能性がある。

 思い出の品に限らず、例えば懐かしい場所に一緒に行ったり、昔話を聞いたりしても、同様の効果が得られると思う。

◆体験談を募集

 介護する家族が前向きな気持ちになるための工夫について、体験談をお寄せください。ファクス052(222)5284、メールseikatu@chunichi.co.jp、郵送の場合は〒460 8511(住所不要)中日新聞生活部へ。

 

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