東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 暮らし > 暮らし一覧 > 7月の記事一覧 > 記事

ここから本文

【暮らし】

<矛盾だらけの障害年金>1型糖尿病患者(上) なぜ?突然の打ち切り

インスリンを自ら注射する滝谷香さん(右)と、血糖値の測定をする和之さん。発症以来、一日も欠かしたことはない=大阪府岸和田市で

写真

 けがや病気を理由に日常生活が立ちゆかなくなった人を支援する障害年金。高齢化やうつ病など精神疾患の患者の増加で受給者数は年々増え、厚生労働省によると、二〇一六年度の受給者は二百十万人に上る。しかし、国の審査体制には不透明な部分が多く、不可解な理由で支給が減額されたり、打ち切られたりするケースが後を絶たない。「命綱」であるはずの制度の不備に翻弄(ほんろう)される人たちを追った。(添田隆典)

 「なんで落ちてるん?」。二〇一六年十二月、大阪府岸和田市の主婦、滝谷香さん(36)は、日本年金機構から届いた封書に言葉を失った。1型糖尿病のため二十歳から受けてきた月約八万円の障害基礎年金を打ち切るとの通知だった。

 すぐ夫の和之さん(36)の携帯電話を鳴らした。「なんでまた突然?」。夫も絶句している。夫婦は長男の康馬(こうま)君(10)との三人家族。同じく1型糖尿病の和之さんの障害基礎年金約八万円と、パチンコ店のアルバイトで働く和之さんの二十万円弱の月給、そして、香さんの障害基礎年金で生活していた。香さんは生活費をどう切り詰めるかで頭がいっぱいになった。

 1型糖尿病は、膵臓(すいぞう)のβ細胞が破壊され、血糖を抑制するインスリンが分泌されなくなる病気だ。若くして発症することが多く、原因は不明。生活習慣に原因がある2型糖尿病とは異なり、食生活や運動習慣では改善しない。毎日数回、インスリンを投与しないと生命を維持できず、逆にインスリンが効きすぎると、昏睡(こんすい)や意識障害を伴う重症低血糖に陥るおそれがある。1型患者を支援するNPO法人「日本IDDMネットワーク」(佐賀市)の井上龍夫理事長は「膵臓かβ細胞のある膵島の移植以外、根治療法はなく、一度発症すると改善することはない」と話す。

 香さんは五歳で発症して以来、インスリン注射が欠かせない。低血糖による目まいや手足のしびれにも日々悩まされている。

 重症低血糖で激しいけいれんと意識喪失に襲われ、救急搬送されたこともしばしば。夫がすぐ駆けつけられないときに備え、同じマンションに住む母の友人に自宅の鍵を預け、康馬君には「ママがおかしくなったら(糖分を補充する)ジュースを開けて飲ませてね」と教え、缶ジュースをいつも備え付けてある。結婚前は乳児院で働いていたが、勤務中に低血糖で倒れたことがあり、いまは内職をするのがやっと。

 和之さんは七歳で発症。香さんとは1型患者の会で知り合った。定時制高校を卒業後、コンビニなど十店舗以上の面接を受けたが、「低血糖で倒れた場合に責任が取れない」と断られ、ようやく採ってもらえたのが現在のパチンコ店だ。

 障害基礎年金は、年金機構の審査で障害の程度が一級か二級と判定されれば、定額が支給される。継続して受給するには、約一〜五年置きに更新の審査を受け、その時点で等級を満たさないといけない。

 香さんには症状が良くなったという心当たりはなかった。前回一三年の更新時と比較してインスリンの投与回数は減っておらず、医師の診断書の内容も良くなってはいない。

 それゆえ、打ち切りは、納得がいかなかった。インスリンの自己負担も含め、夫婦併せた医療費は月五万円近く。まかなえたのは「ひとえに障害年金があったから」。だからこそ、明確な理由が知りたかった。

 A4サイズ二枚の通知書には「障害等級の三級の状態に該当したため」としか書かれていなかった。別の不安がよぎった。

 「私が落ちたんやったら、だんなも落ちるんちゃうか」。和之さんは翌一七年に更新を控えていた。しかし、事態はさらに不可解な方向へ展開していく。

 

この記事を印刷する

東京新聞の購読はこちら 【1週間ためしよみ】 【電子版】 【電子版学割】

PR情報