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【暮らし】

<この夏 食の風景>(1)札幌 北大の「ジンパ」

湯気と香りが立ち上るジンギスカン鍋を囲む学生たち=札幌市北区の北海道大で

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 「食」を通じてつながる人々がいる。複雑な事情を抱える家族が集う下宿や限界集落、老舗の喫茶店…。そこで人々は何を語り、心を通わせるのか。猛暑が襲う二〇一八年の夏。列島各地から食をめぐる人間模様を紹介する。(この連載は、北海道、東京、中日、西日本各紙による合同企画です)

     ◇

 「焼けたぞ」「乾杯!」。JR札幌駅近くにある北海道大(札幌市北区)。ジンギスカン鍋で羊肉や野菜を焼く香ばしい匂いと学生の歓声が構内に広がる。

 「北海道民のソウルフード」として知られるジンギスカンを屋外で食べる同大の伝統行事、ジンギスカンパーティー(ジンパ)だ。マナー違反もあり、一時存続の危機にあったが、学生有志らが署名活動などを行い、復活。学生や教職員が北海道の短い夏を楽しむ風物詩となっている。

 七月上旬、木々に囲まれた共用レクリエーションエリア。ドーム状の形をした直径三十センチほどのジンギスカン鍋から煙が立ち上る。サッカーJ1北海道コンサドーレ札幌を応援するサークル「赤黒学生連合」の今年初のジンパだ。会員約二十人が鍋を囲み、サッカー談議で盛り上がる。サークル代表で文学部三年の大黒将五さん(21)は「大学でわいわい食べるジンパは格別」。女子ラクロス部のジンパに初参加した文学部一年の中村紗矢香さん(18)は「火をおこしたり、肉を焼いたりして、みんなで食べるのが良いですね」と笑顔を見せた。

 北大のジンパの歴史は四十年以上前にさかのぼるといわれる。二〇一〇年にノーベル化学賞を受賞した同大の鈴木章名誉教授も、ジンパで学生らと交流を深めてきたという。だが、学生のほか学外から訪れた人たちの飲酒やごみ捨てマナーの悪化などを理由に、大学側は一三年三月に共用レクリエーションエリアでのジンギスカンを禁止。全国的にも注目を集めた。

 この措置を受け、学生有志は再開に向けて約千六百人の署名を集めた。学生グループ「北大ジンパ問題対策委員会」(ジン対)が大学側と利用ルールの協議を進め、日時や人数を事前申請することなどを条件に、一四年春から再開が許可された。

 「ジンパがやりたい。それだけの気持ちでした」。昨春、北大大学院情報科学研究科を修了したジン対の元委員長、斎藤篤志さん(26)=名古屋市天白区在住=はこう振り返り、「マナーを守ってジンパを自由に楽しんでほしい」と話す。

 ジンパができる専用エリアは校舎から離れた二カ所、計約千平方メートル。本年度は同エリアが開放される五〜十月、計約四千人がジンパを楽しむ見込みだ。週末には百人以上が参加するジンパもある。

 ジンパの再開は、教職員有志も後押しした。大学院法学研究科の吉田広志教授(47)は「一方的に禁止する以外の方法があるのでは」と、再開を求め教職員約百人の署名を集めた。自身のゼミでもジンパは恒例行事だ。

 「自由、自主、自律」。北大が掲げる理念だ。吉田教授は「学生には、伝統のジンパを守った心意気を引き継いでほしい。構内でジンパを楽しめる大学は恐らく北大だけ。学生時代ならではの経験を重ねてほしい」と期待する。

 今年、ジンパに新しい動きがあった。コンビニエンスストア道内大手のセコマ(札幌)が七月二十四日、北大内に「セイコーマート北海道大学店」をオープンした。一階店舗で同社オリジナルのジンギスカン肉などを販売するほか、二階には学生、教職員がジンパに使える屋外テラスも備える。

 北海道の食文化を堪能する伝統の北大ジンパは、さまざまな形で継承され、学生たちの心に刻まれるだろう。

 文・末角仁(すえかどじん)/写真・国政崇

 (北海道新聞)

 

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