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【暮らし】

<この夏 食の風景>(2)シングルマザーの下宿

夕食をとる下宿の住人や近所の人たち=東京都世田谷区で

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 ラザニア、ゆでジャガイモ、ソーセージスープ…。サラダを彩るミニトマトは、庭で収穫した。手作りのおかずが大きな二つのちゃぶ台に並ぶ。小学二年生のはる君(8つ)が「感謝の気持ちを込めて」と言うと、残りの子どもと大人たちが声をそろえて「いただきます!」。にぎやかに夕食が始まった。

 東京都世田谷区のシングルマザー家族のための下宿「マナハウス上用賀(かみようが)」。七月中旬の金曜の夜、保育園児から中学生までの子どもたちや、大学生など合わせて十四人が食卓を囲んだ。

 まるで親戚のような様子を見ながら「近所の人たちや地域づくりの仲間もいます。たくさんのつながりをつくりたいから」。住み込みの管理人で、下宿の運営会社「シングルズキッズ」社長の山中真奈さん(32)がそう説明してくれた。

 夏休みの予定などで会話もはずむ。もう一人の管理人で保育士の経験が長い関野紅子(こうこ)さん(70)や、金曜の夕食の調理を担当する安部恵子さんらが子どもと一日の出来事を振り返る。

 マナハウスは昨年六月にオープン。不動産業界で働く山中さんが、部屋を借りにくいシングルマザーのために、二階建ての一軒家を借りた。一階を台所やリビングなど、二階を居室に改装した。最大六家族が入居できる。

 山中さんがこだわったのは、平日の夕食の提供。ひとり親家庭で育った大人へのアンケートで、親が多忙だったり貧しかったりしたため、満足な食事が取れなかった人が多いと知った。ほかの大人との接点がなかったとの声もあり、地域食堂として近所の人が夕食を一緒に食べられる仕組みもつくった。単なるシェアハウスではなく、管理人が常駐することや保育園のお迎えもすることを決めた。

 現在の下宿人は、離婚などの事情がある四人の母親と、園児から中学生までの六人。会社員で、保育園に通う息子と娘を育てる佐藤英子さん(44)=仮名=は昨年六月に入居した。「ご飯ができているのは本当に助かります」。家賃のほか食事代などの共益費もかかるが、「何より共同で子育てをしている感じがいい」と表情は明るい。

 会社員で息子と住む田中敏子さん(46)=同=は「仕事に集中できる時間が増え、キャリアアップも果たせました」。今は残業もできるが、下宿に入る前は保育園に息子を迎えに行った後、会社に連れていって夜中まで仕事をすることも。息子は一人遊びをしておとなしく待っていたという。

 夕食を食べ終えた子どもたちは、一緒におもちゃで遊んだり、追いかけっこを始めたり。危ないことをした子が関野さんに叱られている。息子がはしゃぐ姿を見て、田中さんは「こうして子どもらしくいられる環境が本当に安心」とつぶやいた。

 佐藤さんも「一緒に食事をするのはもちろん、運動会や発表会にみんなが来てくれたり、庭にプールを出して遊んだり。家族のように日常を積み重ねてきた」と振り返る。そして、印象に残ったという数日前の出来事を話した。

 「家族」がテーマの展示会に「あなたにとって家族とは」と、問い掛けるコーナーがあった。付箋をもらった娘は「すき」と書き、息子は自分と妹の名に続けて「まま」「みんな」と。「血だけじゃなく、一緒に過ごした時間も家族をつくるのかな」と佐藤さんは、ほほ笑んだ。

  文・竹上順子/写真・坂本亜由理

  (東京新聞)

 

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