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【暮らし】

慢性の痛み「悩み分かって」 周囲に理解されず疎外感

慢性の痛みについて語り合う当事者や医療者ら=東京都文京区で

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 数年から数十年にわたって続く「慢性の痛み」。本人のつらさは医療者や身近な人にも分かりにくく、孤独に陥る人も少なくない。患者主体の医療を目指す認定NPO法人「健康と病いの語りディペックス・ジャパン」(東京都)が先月、都内で開いたシンポジウムには、当事者も登壇。社会の理解が進むよう訴えた。 (竹上順子)

 けがや病気による一時的な「急性の痛み」に対し、通常は治ったと考えられる時期を過ぎても続くのが「慢性の痛み」。関節リウマチや線維筋痛症など、さまざまな病気によって引き起こされる一方、何年も診断が確定されないケースもある。痛みは外見からは分かりにくい上、治癒のめどが立ちにくいことから、社会生活に困難を抱える患者は少なくないという。

 シンポジウムで講演した三谷直子さん(48)は、三十八歳の時に左足首を捻挫。近所の整形外科に通い、けがは治ったものの「剣山の針を刺されているような」異常な痛みなどが出始めたため、神経疾患の「複合性局所疼痛(とうつう)症候群(CRPS)」の疑いがあるとして、大学病院から来ていた整形外科医を紹介された。

 慢性疼痛では原因が分からず、患者が診療科をたらい回しされるケースは少なくないが、三谷さんは数週間後には確定診断を受け、大学病院に転院。その時に整形外科、麻酔科、リハビリテーション部での治療を同時に開始したため、早期に特別なリハビリも始められた。CRPSは難治性といわれ、三谷さんも一時は歩けなくなったが、確定診断から四年ほどで歩いたり、仕事をしたりするまでに回復。そのため「早期診断、早期治療は本当に大切」と訴えた。

 三谷さんは他の患者との交流から、医療者の言葉が人を傷つけることがあると言及。診察を重ねても原因が分からない場合、その痛みを「心因性疼痛」と片付けてしまう医師もいる現状に触れ、「『あなたの心が原因です』と言っているのと同じこと」とし、医療者は配慮ある言葉を掛けてほしいと呼び掛けた。

 医師の今崎牧生さん(55)は三十歳の時、頸椎(けいつい)損傷で四肢まひになった後、激しい痛みが出るようになった。心療内科医として慢性疼痛の患者の話も聞いてきた。今崎さんは「痛みで仕事ができなくなり、収入が途絶えた人もいる」と言い、医療費の援助など社会的な支援制度が整っていないと指摘する。患者は社会からの疎外感を抱くことが多く、そのことが痛みをさらに悪化させるとする論文なども紹介した。

 大阪大医学部付属病院疼痛医療センターで診療に携わる奈良学園大保健医療学部教授の柴田政彦さんは、診療のネットワークづくりなどを紹介。慢性の痛み対策に関する議員連盟が四年前に発足しており「がん対策基本法のように立法化が検討されている」と、社会の理解や対策が少しずつ進んでいると報告した。

◆当事者の語りをデータベースに

 ディペックス・ジャパンでは、頭痛や腰痛、関節リウマチ、過敏性腸症候群(IBS)などの体験を持つ人たちに、計95時間超のインタビューを実施。この映像などをまとめた「慢性の痛みの語りデータベース」をホームページ(HP)で公開している。

 当事者41人と家族5人に行ったインタビューは話題ごとに1〜4分の長さに編集。痛みの特徴や治療といった医療面の話題だけでなく、余暇の過ごし方、経済的負担など、当事者ならではの内容が語られている。家族は、痛みの訴えの受け止め方や手助けについて、それぞれの体験に基づいて具体的に話している。

 このプロジェクトの責任者で、自治医科大看護学部准教授の佐藤幹代さんは「同じ悩みを持つ人はもちろん、現場の医療者にも見てほしい」と話す。かつて病棟の看護師として慢性の痛みを持つ患者のつらさを聞き、約20年かけてデータベースの構築にこぎ着けた。佐藤さんは、医学生らの教育の場でも活用されることを願っている。

 HPは「ディペックス・ジャパン」で検索。

 

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