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【暮らし】

<矛盾だらけの障害年金>打ち切りで生活一変 再開しても元に戻れない

病気によるしびれで握りこぶしが作れない女性の指。口元までコップを持ち上げるのも難しく、ストローが欠かせない=愛知県半田市で

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 昨年四月の審査体制の変更以降、三千人近くの支給が打ち切られた障害基礎年金。国は審査の不備を認め、今秋をめどに、症状に変化がなかった約四百人への支給を再開することになった。しかし、突然の打ち切りで生活が一変した人は多く、「仮に再開されてもかつての暮らしには戻れない」と困惑の声が広がっている。 (添田隆典)

 愛知県半田市の女性(46)に、日本年金機構から障害年金の打ち切り通知が届いたのは四月。十年前に膠原(こうげん)病の一つで難病の「全身性エリテマトーデス」を発症して以来、二級の障害基礎年金を受けてきたが、「障害の程度が基準に満たない」との旨が記されていた。

 女性の病気は、発熱や関節痛、発疹などさまざまな症状を伴うのが特徴だが、特に全身のしびれに悩まされている。感覚がまひして左手の握力はなく、右手もわずか十キロ。包丁などが握れず、家事全般は週三回の訪問ヘルパーが頼り。転倒やふらつきがひどいため、自宅にこもりがちで、家族らの付き添いで車いすがないと、月一回の通院もできない。

 女性には離婚した夫との間に三人の息子がいる。長男(22)が結婚して独立後、造園会社で働く次男(19)と、高校生の三男(15)との三人暮らし。月約十万円の女性の障害年金と元夫からの月々の養育費六万円では足りず、働くのが難しい女性に代わって、中学卒業後に就職した次男の約十五万円の月給に助けられてきた。

 しかし、障害年金の打ち切りで状況は一変した。家計維持のため、毎月約十一万円の生活保護を受けることを選択した。家族の援助があると生活保護は受けられないため、生計を支えていた次男は六月、女性の妹の元へ転居。さらに、月五万二千円の自宅アパートの家賃が生活保護に含まれる住宅扶助の上限を上回るため、女性と三男も引っ越さざるを得なくなった。

 階段がなくある程度のリフォームが可能など、障害のある女性が住める物件は限られているため、転居先は市役所の担当者があっせん。握力のない女性でも使えるよう、今はノブの付いたドアを引き戸に取り替えたり手すりを取り付けたりする作業を進めている。

 女性への支給取り消し決定は、昨年末に年金機構に提出した医師の診断書に基づいていた。しかし、支給が継続された四年前の診断書と比較しても、筋力やADL(日常生活動作)は上向いていない。両方の診断書を書いた主治医は「リハビリを重ねても筋力の低下は免れず、むしろ悪化している」と証言する。

 不可解な判定の要因が審査体制の変更だ。これまでは都道府県ごとに委託した認定医が担ってきたが、地域差をなくすとの理由で昨年四月、東京に一元化。地方から東京に認定医が代わった影響で、従来なら受給できたはずの人が、打ち切られる事態が判明した。

 厚生労働省によると、昨年度の審査で支給を停止した人は約二千九百人。このうち四百十人ほどが症状に変化がないのに打ち切られたとみられ、同省は七月、さかのぼって支給を再開する方針を明らかにした。

 女性も昨年度に審査を受けたため、支給再開の望みはある。ただ、対象者の特定には時間がかかるとして、再開されたとしても早くて九月以降の見通しだ。

 しかし、すでに一変した生活が元通りになるわけではない。

 障害年金が打ち切られて以降、生活保護費と元夫からの養育費だけでやりくりしている女性。転居後は新しい環境にも慣れなければならない。仮に支給が再開されたとしても「転居先から今のアパートに戻るほどの余力はない」と話す。「もう、後戻りはできないんです」。女性は力なく話した。

 

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