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【暮らし】

<矛盾だらけの障害年金>1年6カ月の壁 重病でも申請できない

ひとり残された自宅で男性の遺影を見つめる母親=愛知県碧南市で

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 障害年金には、病気やけがの状態を見極めるため、初めて診断を受けた日から原則一年六カ月を過ぎないと申請できない決まりがある。がんや白血病などで余命宣告を受けても、例外ではない。このため、障害年金を利用したくても利用できず、治療をあきらめる患者も多く、「重病の場合、すぐに申請できるよう例外を認めてほしい」と求める声は根強い。 (添田隆典)

 愛知県碧南市の男性(46)宛てに、日本年金機構から障害年金の支給決定通知が届いたのは九月上旬。母親(72)が開封すると、二級の障害に該当したとして、約百二十一万五千円が支給されると書かれていた。でも、素直には喜べなかった。「息子はもう生きてないんだよ」。白血病を患っていた男性は、支給が決まる前に亡くなっていた。

 男性は二〇一六年四月、勤め先の階段でふらついて転倒し、病院で末期の白血病と診断された。医師からは「治療をしなければ余命は一年。治療をすれば二年」と宣告され、休職して治療する道を選んだ。

 休職に伴い月二十数万円だった給料はゼロに。健康保険の傷病手当金が毎月約十六万円支給されるようになったが、社会保険料が引かれ、実際の手取りは十三万円前後に。一方、医療費の自己負担が減額される高額療養費制度を使っても、抗がん剤などの治療費は月四万四千〜五万八千円。入院すれば費用は月十万円近くに膨れる。男性は生活費を切り詰めながら二カ月に一回の頻度で通院し、一昨年末からは四カ月間入院。しかし、費用が賄いきれなくなり、一七年四月以降、治療はほぼ途絶えた。

 傷病手当金の支給期間は最長一年六カ月。その期限が迫った一七年十月、同県安城市の社会保険労務士、白石美佐子さん(52)は「障害年金を申請したい」と本人から依頼を受けた。白血病の診断から一年六カ月がたとうとしていた。

 障害年金は、身体、知的、精神の障害だけでなく、がんや糖尿病、白血病などでも、働くことや日常生活にハンディを負った際に支給され、生活費や治療費を賄う人も多い。ただし、申請ができるようになるまでは初診日から原則一年六カ月を待たないといけない。症状が固定した場合は例外的だが、がんなどは一年六カ月、必ず待たなくてはならない。このため、「治療費が払えずに治療をあきらめる人もいる」と白石さん。男性が手続きを始められたのも、一年六カ月を過ぎてからだった。

 その間も症状は進んだ。目まいや貧血などで起き上がれず、一日中、横になる日が増えた。主治医の診断書などの書類がそろったのは四月十九日。翌日、男性は息を引き取った。一カ月前から、何度も救急搬送されたが「お金がないから」と入院を拒んでいたという。

 男性は両親と三人暮らしだった。闘病中の一七年八月、父親が肺がんのため死亡。母親は七年前から人工透析を続けている。母親は男性の死後、本人の口座に五十万円が手つかずで残っていることを知った。お金を理由に治療を我慢したのは、残される母の生活が心配だったから−。そう思うといたたまれなかった。

 男性の障害年金は、白石さんが申請し、一緒に暮らしていた母親に権利が譲られた。生前の病状が基準を満たせば、五年までさかのぼって未支給分を遺族が受け取れる制度があるからだ。それでも、母親の心が晴れることはない。「治療が必要な時に本人が受け取れなくて、どうして生きるための年金だっていえるの」

 

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