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【暮らし】

若年性認知症でも前向き 元警察官が経験生かし講演

デイサービス職員の仲山峰雄さん(左)に見守られて、ボールを使ってリハビリする堀江将尊さん=福井市内で

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 福井市の元警察官、堀江将尊さん(57)は、五十歳のころ若年性認知症を発症。現在は退職してデイサービスに通う。しかし、施設職員のサポートを受けながら振り込め詐欺の被害防止の講演をするなど、警察官としての経験を生かして認知症になってもできることに前向きに取り組む。 (細川暁子)

 「今日は、平成三十年十月四日です」。ボードに書かれた日付を読み上げる。十月上旬、堀江さんが通う福井市のデイサービスリハビリセンター「トレフル」での一幕だ。堀江さんは週に六日通ってきて、七十代や八十代の利用者たちと一緒にボールを使った体操をしたり、カラオケをしたりして一日を過ごす。

 警察官時代は、交番に勤務したり交通違反を取り締まったりしてきた。スピード違反の切符を切った相手から「今後は交通ルールを守ります」と手紙が届くこともあり、やりがいを感じてきた。

 自身の異変に気付いたのは二〇一一年。書類の出し忘れなどのミスが続いた。心療内科を受診すると、うつ病と診断された。それから約一年、休職や復職を繰り返したが、薬を飲んでも治らずに大学病院を受診。脳の血管障害が原因の若年性認知症と分かった。

 警察官の職務には、パトカーの運転や拳銃の所持など、重大な責任を伴うことが少なくない。「職場に迷惑をかけられない」と、退職した。当時はまだ車の運転もでき、病院に一人で通えた。だが、アクセルとブレーキを踏み間違えるようになり、運転をやめた。

 家にこもる時間が長くなると、会社員の妻ひろみさん(58)は「このままでは悪くなるばかり」と心配し、地域包括支援センターに相談。デイサービスに通うことにした。だが、ほかの利用者はほとんどが高齢者。職員の仲山峰雄さん(38)は堀江さんが孤立しないようにと、堀江さんに警察官時代の経験を利用者らに話してもらった。堀江さんは振り込め詐欺の被害について話し始めた。「八百万円をだまし取られて、泣いていたおばあちゃんがいた。電話がかかってきたら、気を付けてください」

 その後、ケアマネジャーの仲介で、市内の公民館でも三回、振り込め詐欺防止をテーマに話した。堀江さんが認知症だと明かすと、集まったお年寄りたちは驚きながらも、真剣に話を聞いてくれたという。

 堀江さんは「仕事を辞めたショックは大きかった。でも、現役時代の経験を生かしてできることが自分にもある。若年性認知症の人が活躍できる場が増えてほしい」と期待を寄せる。

◆発症後、7割が「収入減」

 厚生労働省の二〇〇九年の調査によると、若年性認知症の人は全国で約三万八千人と推計される。六十五歳未満で認知症を発症した場合が若年性とされるため現役世代の人が少なくなく、調査では、家族の約七割が患者の発症後に「収入が減った」と回答した。患者を経済的、精神的に支援する仕組みづくりが急務となっている。

 滋賀県守山市の精神科「藤本クリニック」では、若年性認知症の患者が少しでも長く仕事を続けられるようにと、患者の職場の上司を招き、患者、家族と一緒に働き方を話し合う取り組みを続けている。休職、退職した患者には、近隣の企業から袋詰めなど内職の仕事を受注し、クリニック内に作業場を設けている。現在約四十人が働いている。

 院長の藤本直規さん(65)は、「若年性認知症と診断された後に退職すると、介護保険のサービスを受けるまでは、十分な支援が得られずに孤立しがち。医療機関が窓口となって情報提供や就労支援に取り組むことが重要だ」と指摘する。

 

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