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【暮らし】

<Life around the World>時代をまとう装い

 気候が穏やかになり、ファッションを楽しめる季節になった。日本でも、さまざまな色彩や意匠が秋の街を彩っている。服装は時代の空気もまとい、歴史や文化を発信する。海外ではどんな装いが流行し、人々をゆたかにしているのか。

6月のサッカーのワールドカップ・ロシア大会を観戦した際、ココシニクを頭に着けたエカテリーナ・ゴンチャロワさん(右)(本人提供)

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◆ロシア 古くて新しい「とさか」

 今年の夏、「古くて新しい」と、注目を集めたロシアファッションがある。女性の頭を飾る「ココシニク」。サッカーのワールドカップ(W杯)ロシア大会で着用する地元サポーターの姿がメディアなどで伝えられ、目を引いた。

 ニワトリが語源とされる通り、とさかのような半円状の布地に宝飾がちりばめられる。「昔から憧れていた」。モスクワに住む美容品販売、エカテリーナ・ゴンチャロワさん(27)は、W杯で初めて身に着けた。

 スタジアムでは、各国のサポーターから質問を受け、記念撮影をせがまれた。「メキシコのソンブレロ(つばの広い帽子)やブラジルのカーニバルの衣装みたいに、ロシアにも特徴的なファッションがあると印象づけられてうれしかった」と振り返る。

 服飾研究家のマリアナ・スクラトフスカヤさん(46)によると、ココシニクに関する公式な記録が残るのは十六世紀ごろから。富の象徴として貴族の間で過熱し一時、着用が禁じられたが、自身も愛用した女帝エカテリーナ二世(一七二九〜九六年)の時代に復活した。

多様なデザインで、店頭に並ぶ現代風ココシニク=エレーナ・ダニロワさん提供

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 最近では結婚式や伝統舞踊で主に使われていたが、スクラトフスカヤさんは「現代ファッションにも適応できる。W杯はその後押しになるだろう」とみる。

 ロシア西部の飛び地、カリーニングラードに住むエレーナ・ダニロワさん(44)は昨年からココシニクを販売。日常で使いやすいよう装飾なしで形を縮小し、五百ルーブル(約九百円)からと手ごろな値段に設定した。

 W杯後、ネット販売で外国からの注文が増え、全体の半分に。「ココシニクは女性の表情を引き立てる。これからも美しく、幸せな女性を増やしていきたい」と伝統の枠を超えた美の発信に力を入れる。(モスクワ・栗田晃)

(左)ヨガパンツ姿でベビーカーを押すコリーン・クレアリーさん (右)スエットパンツに運動靴姿のジュリアン・ロドリゲスさん。「仕事もこの格好。周囲からも好評です」

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◆米国 次代はアスレジャー

 米アパレル大手VFコーポレーションが八月中旬、「リー」や「ラングラー」といった米国を代表するジーンズ部門を切り離し、運動着部門に重点を置く方針を発表した。米紙ニューヨーク・タイムズは「デニムが去り、アスレジャーが取って代わる」と報じた。

 アスレジャーは、アスレチック(運動競技)とレジャー(自由時間)を組み合わせた造語。運動着の機能性や着心地の良さを生かした日常ファッションとして近年、米国を中心に市場が拡大している。

 世界の服飾ブランドが出店するニューヨーク・マンハッタンの五番街では、伸縮素材のズボンに運動靴という装いの人々が目立つ。

コーチの店舗で売られている革のジョガーパンツ(左)。アスレジャーの波は高級店にも=いずれもニューヨークで

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 ヨガパンツ姿でベビーカーを押す金融会社員コリーン・クレアリーさん(34)は「この格好で働けたら、もっとリラックスできるけど、保守的な職場だから…」と苦笑い。ゆったりしたスエットパンツと運動靴にワイシャツを合わせた不動産開発業ジュリアン・ロドリゲスさん(26)は「仕事でもいつもこの服装。快適に動き回れる」と胸を張った。

 アスレジャーの波は高級店にも。米皮革品大手コーチの店を訪ねると、革のジョガーパンツが並べてあった。店員のブランドン・ホーキンスさんは「サイズの大きなセーターと組み合わせるのが今のオススメ」と教えてくれた。

 米ネバダ大ラスベガス校のディアドラ・クレメンテ准教授(米近代文化史)は「アスレジャーは流行ではない。カジュアル着の進化だ」と指摘。性別に限定されない服装の浸透やスポーツの普及といった社会の変化に加え、綿素材と比べて丈夫で洗濯も簡単な合成繊維の進歩が大きいとみている。一方、楽な服装の追求にはこんな懸念も。「いずれファスナーを使えない世代が出てくる」 (ニューヨーク・赤川肇、写真も)

中秋節のイベントで披露されたさまざまな漢服=いずれも北京市で

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◆中国「漢服」に民族の誇り

 中国の衣装といえばチャイナドレスが思い浮かぶが、最近は「漢服」と呼ばれる漢族の民族衣装が静かに流行している。

 名月を楽しむ中秋節の休みに入った9月下旬。北京市内のホールに、鳥や魚、草花などが刺しゅうされた色鮮やかな漢服で着飾った若い男女約80人が集まり、古来の遊びを楽しんだ。

 漢服はボタンではなく帯で留め、歩く時に長い袖がさやさや揺れる感覚が和服の原型ともいわれる。様式は男女や時代によってさまざまだ。イベントを企画した北京漢服協会の蔡沢鴻(さいたくこう)さん(35)は「着ていて気持ちいいし民族の誇りをまとう意味でも、すがすがしい」と笑顔で話す。

 紀元前から17世紀の明王朝の滅亡まで漢族に親しまれた。満州族が築いた清王朝や文化大革命の頃には着用が禁止され、一時廃れたが、21世紀に入って高度経済成長を経験し、物質的に恵まれた世代が文化活動で広めたのが復権のきっかけ。栄華を誇った民族のプライドを取り戻す意識もあるようだ。

イベントで漢服を着て伝統的な遊びを楽しむ女性ら

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 同協会では金曜日に漢服を着て出社する活動も推進。最近では、漢服を着る大学のサークルが増えるなど、最初は奇異の目で見ていた周りの人の理解も進んだという。今では多くの漢服ブランドがあり、ネットショップでも買える。1万元(約16万円)を超える高級漢服も出てきた。漢服を着ている人を地図上で探すアプリも登場したという。

 流行の背景に「三国志」など映画やアニメの影響を指摘する声もあるが、蔡さんは「入り口はコスプレでも、民族の文化や風習に興味を持ってくれれば」。

 習近平(しゅうきんぺい)国家主席が唱える「中華民族の復興」運動と「インスタ映え」ブームの相乗効果で、流行を支えているようだ。 (北京・安藤淳、写真も)

 

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