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【首都圏】

若き哲学者を支えたい 故渡邊二郎さんの妻・邦美さんが1000万円寄付

「若い人に哲学の専門研究を続けてほしい」と語る渡邊邦美さん=千葉県市川市で

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 ハイデッガーら近現代ドイツ哲学の研究で知られる哲学者、故渡邊二郎さんの妻、邦美さん(77)=千葉県市川市=が、「若い人たちが哲学研究を続けられる一助になれば」と、私財1000万円をハイデッガー哲学に関心を持つ研究者らでつくる学会に寄付した。学会は「渡邊二郎賞」を新設。9月に名古屋市で開かれる年次大会で、優秀な研究発表者に賞金を出すことにした。 (服部利崇)

 邦美さんが学会「ハイデガー・フォーラム」に寄付を申し出たのは昨年初め。渡邊さんの教え子で学会実行委メンバーも務める東北大教授(西洋近現代哲学)の森一郎さん(54)らは、寄付をどうやって次世代の研究者育成につなげるかを検討。「渡邊先生も後進育成を大事にした。若手のやる気が増し、切磋琢磨(せっさたくま)にもつながる」(森さん)と、新たに賞をつくり、年一回の研究発表の場の大会で、優秀な研究者に寄付金の一部から賞金十万円を渡すことを決めた。

 人文学系の研究を取り巻く環境は厳しい。森さんは「理系優位が顕著になり、哲学を専門に研究を続けても職を得るのが難しくなった。途中で大学を去る人もいる。寄付はたいへん心強い」と話す。

 邦美さん自身も地元の市川市で、哲学と市民をつなぐ取り組みを続ける。二年前から月一回のペースで、哲学カフェ風の勉強会を主宰。「哲学の専門研究は聞くのが精いっぱい。日常でも知的に考える場を設けたい」と考えたからだ。渡邊さんの放送大教授時代の人気講義「自己を見つめる」を収めたテープとそのテキストを教材に使った。

 勉強会の発足当初は、放送大で渡邊さんから直接学んだ三、四人の集まりだった。今では、県外も含む二十〜七十歳代の十数人にまで参加者が増えた。邦美さんは「『先生の哲学で命を救われた』という人もいた。哲学は、生きるのに必要な人間力を養ってくれる。廃れさせてはいけない」と言葉に力を込める。

 新賞創設について、邦美さんは「すぐお金になる学問がもてはやされ、哲学研究に骨身を削っても見合う報酬が得られにくくなった。思索一筋の研究人生を送った主人も喜ぶと思う」と話している。

 <渡邊二郎(わたなべ・じろう)> 哲学者。東大名誉教授。放送大名誉教授。専攻は西洋近現代哲学。1931年、東京・渋谷生まれ。「ハイデッガーの実存思想」でデビュー。フッサール、ニーチェらの思索に胸を借り、生きる意味など重厚な研究を重ねた。他に「ハイデッガーの存在思想」「ニヒリズム」など。後期は「自己を見つめる」など一般読者向けの作品も出し、読者の幅を広げた。2008年に76歳で死去した。

 

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