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【首都圏】

「独」国名の当て字やめて 漢字愛するドイツ人・八王子のシュミッツさん

漢字字典「常用字解」を英訳したクリストフ・シュミッツさん=東京都港区のブッククラブ回で

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 ドイツを漢字で「独」は差別的だ−。東京都八王子市に住む本紙読者でドイツ国籍の漢字研究者、クリストフ・シュミッツさん(47)が自費出版した漢字字典英訳版で、こう訴えている。形から人々の思想が読み取れる漢字に魅了され、奥深さを西洋の人にも伝えようと十二年かけて英訳した字典。それだけに、母国の表記には納得できないそうだ。 (小野沢健太)

 シュミッツさんは、ドイツのデュッセルドルフ大学で哲学や西洋、日本の歴史を学んでいた一九九七年、漢字研究の第一人者の白川静さん(一九一〇〜二〇〇六年)のインタビュー記事が載った日本の新聞を読み、説得力を感じた。

 その後、東京大の研究生だった二〇〇三年に白川さんを訪ねた際、著書の漢字字典「常用字解」の出版前の原稿を見せてもらった。常用漢字の成り立ちと奥深さの分かりやすい解説に感動し、翻訳を決意した。

 欧米では、漢字を造形美として評価する動きもあるが、その成り立ちまで詳しく解説した字典はほとんどないという。白川さんの学説を世界に伝えるため、母国のドイツ語ではなく英語版を作ることにした。

 「同じ文字でも音読み訓読み、複数の意味がある。複雑な漢字をアルファベットで説明するのは難しかった」と笑うシュミッツさん。東京大の研究生を終えた〇四年以降も日本で生活し、語学講師などをしながら英訳を続けた。

 「『口』という漢字は、『信』『告』など宗教に関係する文字に多く使われている。字源が人間の口の形ではなく、神への祈りを記した祝詞を入れる容器に由来しているから」。文字それぞれの由来、背景から社会状況も見える。「漢字は文字の宇宙のようです」

 それだけ漢字を愛するシュミッツさんが嫌いな漢字が、ドイツの当て字「独」だ。獣偏を使っていることに、差別視がうかがえるという。「漢字を知るドイツ人としては、この文字は変えてほしい」。白川さんも生前、シュミッツさんの主張を聞いたとき、「それが日本人の中華思想ですよ」と、差別意識が文字に表れていると同意したという。

 新聞を読んでいて、ドイツの出来事を報じた記事の見出しに「独」があると悲しい気持ちになる。「余計な意味が込められないよう、漢字を使わない国には当て字をせず、カタカナで統一してほしい」

 英訳版「常用字解」は一万五百八十四円。巻末に白川さんの功績、自身の経験を踏まえた漢字の勉強のコツも盛り込んだ。

 東京都港区南青山の書店「ブッククラブ回」=電03(3403)6177=で販売中。

◆識者談話 音読みを拾ったものではないか

<京都大人文科学研究所付属東アジア人文情報学研究センターの安岡孝一教授(人文情報学)の話> 国名の当て字の由来ははっきりしない部分が多いが、ドイツ(独逸)の場合、「独」と「逸」の2文字に関連性はないことなどから、音読みを拾ったものではないか。

<白川静> 福井市出身。3000年以上前の中国の甲骨文字を研究し、漢字の字形には呪術(じゅじゅつ)や祭祀(さいし)にかかわるものが多く含まれるとする「白川文字学」を打ち立て、2004年に文化勲章を受章した。

 「常用字解」は、03年に中高生向けに執筆した入門書。出版当時の常用漢字1945文字の字源や用例を解説している。

 

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