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【首都圏】

<談論誘発>地震の建物倒壊「火災被害」拡大 「災害イメージ」発信して

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◇東京大学総合防災情報研究センター長・教授 田中淳(たなか・あつし)氏

 発生が指摘されている首都直下地震では、揺れによる被害に加えて、火災に伴う多数の死者や甚大な住宅被害が懸念されている。

 国の被害想定でも、最悪のケースでは、全焼・全壊六十一万棟のうち、火災によるものが四十一万棟(67%)と試算されている。

 住民もある意味、火災の危険性を正しく理解している。私たちが実施した都民対象の調査では、もし首都直下地震が発生したら、家屋の倒壊に加えて火災が不安だと多くの人が回答。しかも電気器具の発熱や電線のショートといった電気関係を火災原因として挙げていた人の割合も少なくなかった。阪神・淡路大震災や東日本大震災で、電気関連の火災が半数程度を占めた事実と適合している。

 しかし、同じ調査で「死ぬ」という語と関連する語として、「下敷き」「建物」「ガラス」などが並んでいたが、「火災」という語は見られなかった。火災と死が具体的には結びついていない。また「火災」と「倒壊」との関係も見いだせていない。

 ところが、専門家は建物の倒壊が火災による被害の拡大につながると見ている。「建物の下敷きになると、火災が迫ってきても逃げられない」「外壁が崩れると、その内側の可燃物が露出して、延焼しやすくなる」「倒壊家屋が道をふさぎ、消防車両が消火できない」ためである。

 火災対策のひとつは、建物の耐震化ともいえるのではないだろうか。

 火災により何人が被害、何棟が被害を受けるという想定結果の数字だけでは、自らの命の危険にも火災への備えとしての耐震化にも結びつきにくい。確率的には、自宅が延焼する事態は「もらい火」の可能性が高く、周囲の他者の適切な消火活動に期待するしかなくなってしまう。

 被害想定結果の数字だけではなく、その被害の背景にある専門家の危機意識やそれを反映した算定の考え方も分かりやすく伝える必要があるだろう。

 同様に、例えば荒川など大きな河川が氾濫すると、多くの避難者や孤立者が発生してしまう。その背景には、高層マンションなど一見すると水害と無縁に見える住居でも、地下や一階にある受電設備が被害を受けて停電。その結果、トイレが使えないなど、生活ができなくなってしまう事態になるからだ。

 地方自治体や国も、被害想定の結果を伝えるだけではなく、その背景にある「災害イメージ」を住民が作り上げることができる情報発信へと転換すべきである。

 1954年生まれ。災害情報、避難行動、災害下位文化など研究。東洋大学社会学部教授を経て現職

<首都直下地震> 今後30年以内に70%の確率で発生すると言われている。政府は最悪の場合、マグニチュード(M)7.3、最大震度7で、死者約2万3000人、建物の全壊・全焼は約61万棟に及び、経済被害は95兆3000億円と想定している。東京の場合、墨田区に代表されるように木造住宅が密集する住宅地で、かつ高齢化が進む地域は各地にある。西部の環状7号線と8号線の間を中心とする地域や、東部の荒川沿いの地域で、火災などで住宅が全壊する危険性が高い。この地域では住民の協力なしでは火災被害を減らすことは不可能とされている。

 

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