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【首都圏】

「お手伝いさん」サークル 機関誌復刻 高度成長期の労働環境伝え

女中さんのサークル希交会の機関誌「あさつゆ」復刻版

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 一九五〇年代、家庭に住み込みで働くお手伝いさん同士の交流から「希交会」というサークルが生まれ、機関誌「あさつゆ」が発行された。十八年にわたり続いたこの機関誌が「高度成長期の<女中>サークル誌−希交会『あさつゆ』」(全十巻、金沢文圃閣=金沢市)としてよみがえった。中学を卒業して地方から上京、当時は「女中さん」と呼ばれていた女性の家事労働と私生活の実態が誌上でつづられており、研究者の阪本博志・宮崎公立大准教授は「女性史、家庭文化史の空白を埋める貴重な資料」という。 (小寺勝美)

 基となった資料は会の事務局長を務めた東京都内の今井八重子さんが保存していた。初刊号はガリ版刷りだった。会のきっかけは五四年四月、今井さん宅で働いていたお手伝いさん(19)が朝日新聞の家庭面「ひととき」に出した投稿だった。農村と都会の暮らしの格差に驚く内容で、共感する仕事仲間の間に交流が芽生えた。瞬く間に広がってその夏の結成式には九十八人が参加、希望が交わるとして命名された。当初は東京だけで会員は十四グループに分けられた。その後、関西にも誕生した。

 「あさつゆ」からは、住み込み労働という長時間にわたる拘束と雇い主家族との同居でリラックスできないといった厳しい環境が伝わってくる一方、やはり地方から上京し、各種業界で働いている若者でつくるさまざまなサークルとの交流内容も詳しく記載されている。年二回開かれた会の総会で民主的な話し合いが行われた状況が細かく議事録として残っている。雇い主の奥さん方と結婚などについて対等の立場で話し合いが行われたことも記されていて、「戦後民主主義が実践されていることが読み取れる」と阪本准教授はみる。

 高度成長期を経て、家事労働従事者が中卒の女性から中高年の女性に変化し、呼び名も「女中さん」から「お手伝いさん」へ、そして「家政婦さん」と変わっていき、会は七二年に幕を閉じた。阪本准教授は「会に参加できた人たちは恵まれた存在。多くは会に参加できる環境になかったと思います。それにしても機関誌は画期的なことで『女中さん』の生活が記録されている他にない資料です」とその意義を評価する。

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阪本博志准教授

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 「−希交会『あさつゆ』」一〜三巻は刊行済みで、四〜八巻も来年刊行予定。また「あさつゆ」に劣らず貴重な資料が、二〇一九年三月に刊行予定の別巻二冊。会の東京第10グループと京都グループで、会員間の交換日記的な回覧ノートの復刻である。機関誌では書けない職場(家庭)内の私生活が語られている。「大学ノートに達筆もあれば、やっと書いたような拙い文字もあり、当時の息吹が伝わる」と阪本准教授。

 回覧ノートの存在は作家松本清張の知るところとなり、家政婦を主人公にした小説「熱い空気」が生まれたという。阪本准教授は当初、自身の研究資料とするつもりだったが「(金沢文圃閣の)田川浩之社長と会って、独占するのではなく後進の研究資料に復刻すべきだと考えた」という。

 問い合わせは、金沢文圃閣=電076(261)8884=へ。

 

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