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【首都圏】

<談論誘発>最後の武蔵野を未来に 開発と破壊が進む「くぬぎ山」平地林

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◆獨協大学学長・犬井正(いぬい・ただし)氏

 東京の西郊、武蔵野の北部には、都市住民からも「武蔵野の雑木林」として親しまれてきた広大な平地林が見られる。埼玉県の所沢、川越、狭山、三芳の三市一町に広がる「くぬぎ山」周辺には、武蔵野の面影を色濃く残す百五十二ヘクタールの平地林がある。

 北武蔵野の大部分は江戸時代初期には見渡す限りの荒野。十七世紀末になると、三富新田の開拓が行われ、農民は冬の乾燥と強い北風から守るために畑や家の周囲に木を植えて、堆肥用の落ち葉や薪材を得て生活。木には虫たちが集まり、虫は鳥を呼び、鳥や風は草木の種子を運び、さまざまな植物が芽生えた。オオタカやフクロウなど多くの生きものがすむ森林になった。

 しかし、高度経済成長期以降、落ち葉堆肥は化学肥料に、薪はプロパンガスや石油に取って代わられ、平地林は農業や農家生活に必要不可欠ではなくなった。平地林には畑と比べると高額な税金がかかるので、農民だけで維持・管理していくことは困難。売却された平地林は材料・土石置き場、倉庫、霊園、廃棄物処理場などに姿を変えた。利用されずに放置され、荒廃した平地林は開発の手から守り保全しなければならない。

 最後の武蔵野とも言うべきくぬぎ山の平地林を未来に残そうと、二〇〇四年に「くぬぎ山地区自然再生協議会」が設置され、官民一体の活動が始まった。ところが民有地の自然再生事業であることに加え、さまざまなステークホルダーによる自然再生の合意形成の困難さや財政負担の方策などの課題が立ちはだかり、自然再生どころか平地林の保全すらままならない。くぬぎ山の中央部に位置する狭山市域は、今も平地林の開発や破壊が進んでいる。

 県は〇八年に県民が「最も身近なみどり」と感じている平地林が、過去三十年間に六千五百ヘクタールも消失してしまったことに危機感を感じ、保全再生のために自動車税の一部を財源として約十三億円に及ぶ「彩の国みどりの基金」を創設した。この画期的な施策でくぬぎ山の自然再生の夢も膨らんだが、基金を投入した事業成果を見ると、秩父山地の山林管理に重点がおかれ、平地林の保全・再生は傍らに置かれてきた感が強い。

 基金の創設から十年、今こそ行政は基金の使途について再考し、くぬぎ山の自然再生事業に大胆に資金を投入すべきである。国の「特別緑地保全地区」指定制度も活用し、行政が平地林を買い上げて公有地化を図り環境保全林や健康保養林として、市民参加型の新たな平地林の利活用を促進すべきであろう。

     ◇

 1947年生まれ。理学博士、専門は持続的農村システムの研究等。「くぬぎ山地区自然再生協議会」学識委員

<特別緑地保全地区> 地権者に開発規制を求める一方、土地の買い取り請求が認められる。市町村、都道府県が土地を買い入れ、土地取得や管理・施設整備に国からの支援も得られる。首都圏では有効な緑地保全策として知られ、緑地保全に積極的な自治体は国土交通省との調整で導入を図っている。指定面積の広狭が自治体の緑地保全の熱意のバロメーターとも言われている。自然的、社会的環境が共通する首都30キロ圏内の1都3県の指定実績は埼玉県が最低の30.2ヘクタール、千葉県74.5ヘクタール、東京都278.8ヘクタール、神奈川県672.9ヘクタール(2016年3月現在)。

 

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