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【首都圏】

映画「ニッポン国VS泉南石綿村」 都内、横浜で上映中

映画製作について話す原一男監督=都内で

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 大阪・泉南(せんなん)地域のアスベスト(石綿(いしわた))工場の元労働者らが、健康被害から訴えた国賠訴訟や人間模様を8年にわたって記録した長編ドキュメンタリー映画「ニッポン国VS泉南石綿村」が、東京都内と横浜市内で上映されている。首都圏でもアスベスト被害者らが提訴し係争中だ。原一男監督(72)は「泉南での命の叫びを知っていただき、首都圏での力にもなれたらいい」と話す。 (野呂法夫)

 泉南地域は大阪府最南部にあり、明治の終わりから「石綿紡織(ぼうしょく)業」で栄え、高度経済成長の最盛期は二百社以上が操業。多くの下請けの零細企業や工場が密集し「石綿村」と呼ばれた。

 だが、繊維状の鉱物の粉じんを吸い込むと、長年の潜伏期間をへて肺がんや中皮腫を発症する。日本では二〇〇四年に使用・製造が禁止された。〇六年五月、劣悪な環境下で働いた元労働者らが国に賠償請求を求めた「泉南アスベスト国賠訴訟」が始まった。

 映画の前半は「静かな時限爆弾」に苦しむ非情な健康被害の実態を追う。原監督は〇八年から、発症した原告らにカメラを回し、撮影中に七人が亡くなった。

 「ある時点で疾患は急激に悪化する。撮影の四カ月後にうかがうと、死亡したという。二度撮影できた人は少なかった」と原監督。

 国はアスベストの健康被害を把握しつつも、防火性や安価な点から経済発展を優先し規制や対策を怠ってきたことへの無念さや憤りを丹念に描いてみせる。

 「なぜもっと怒らないのか」。後半では、厚労省交渉などで「逃げる国」に優しすぎる原告らを原監督が問う。「ドキュメンタリーって何を描く? 人間の感情です。それは闘うべき相手、敵が誰かを可視化すること。一番感情を露(あら)わにした人にカメラは向いた」

 その一人、元石綿工場経営者の柚岡(ゆおか)一禎さんは、国に対し最高裁に上告しないよう「建白書」を手に首相官邸に赴く。さらに、亡き夫の損害賠償を退けられた佐藤美代子さんの官邸前での涙の訴えは胸を打つ。

 一四年、最高裁判決は国の責任を認めて原告が勝訴したが、既に二十一人が他界した。一方、周辺住民が健康を害した近隣曝露(ばくろ)などの訴えは届かない。

 原監督は「『棄民』をつくって平成の時代を終わらせてはならない。映画が首都圏での連帯の広がりに役立てたらいい」と話した。

 上映は東京都渋谷区のユーロスペースで三十日まで(その後は未定)、横浜市中区のジャック&ベティが四月六日まで、同区の横浜シネマリンは同十四日〜五月十一日。

 

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