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【首都圏】

愛される「逆さ富士」に 建築家が語る 富士山世界遺産センター(静岡)

逆円すい形に造られた静岡県富士山世界遺産センター。水面に建物の外観が映り、木組みの富士山が浮かび上がる=静岡県富士宮市宮町で

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 昨年12月23日に静岡県富士宮市に開館した県富士山世界遺産センター(遠山敦子館長)が人気を集めている。4月23日には来館者が20万人を超え、年間入場者目標の30万人を大きく上回るのは確実だ。「逆さ富士」をかたどった木組みの美しい外観だけでなく、ユニークな展示方法にも注目が集まる。印象的なデザインはどう生まれたのか。世界的に活躍する建築家の坂茂(ばんしげる)さん(60)に発想の源と、センターへの期待を聞いた。 (前田朋子)

 (センターの)形には悩みました。大きな「富士山」というテーマがあり、施設のシンボル性を考えれば、どんな形でもいいわけではない。ただ、あれほど強烈な造形の富士山を前に、同じ形の屋根を作っても対抗できない。直接あの形を使わないものを、と考えていました。

 僕は中学、高校とラグビーをやっていて、毎年、夏は山中湖畔で合宿をしていました。湖面に映る逆さ富士は波立つだけで印象が違うし、季節ごとに映る木々の色も複雑なイメージをつくり出します。それが強く頭にありました。

 もう一つ、富士山の湧水を使うのもテーマでした。富士山本宮浅間大社に湧いた水がセンター隣の神田川に流れる。これを館内の空調に使った後、建物の前に作った浅い水盤にためて建物を反射させる。逆さ富士が富士山の形になります。水に映すことで富士山の形を抽象化したわけです。

 博物館は通常、展示物と建物にあまり関係がないんですが、逆さ富士を造る以上は、展示の内容・構成と一体感を持つものにと、逆さ富士型の建物内のらせん状の斜路を上がり、壁に映された登山中の素晴らしい景色の映像を見ながら富士登山の疑似体験ができるようにしました。最上階は展望の空間に。「ピクチャーウインドウ」という手法で、本物の富士山がポストカードのように切り取られて見えるような大きな窓を作りました。予想はしていましたが、暗い斜路を上がって、切り取られた本物の富士山を見た方々は「おお!」と驚きの声を上げるんですね。計画がうまくはまったと思います。

 建設中に仮囲いが取れたとき、地元の方に感想をこっそり聞きました。僕が誰かを知らないおばさま方が「すごくきれい」と見とれてくださってうれしかったですね。公共建築として一般の方に親しまれる建築を造りたいというのが最大の目的でしたから。建築は人に愛されるとパーマネント(永久、恒久)になるんですよ。お金もうけのためにつくった商業建築は、コンクリートで造っても仮設でしかない。有名建築家が設計しても、都心の大きなホテルが三十年しか持たなかった例もあります。

 センターに観光客が来られるのは当然ですが、地元の方が「うちの街にこんなのができた」って親戚やお友達を連れて行く、誇れる施設になってくれれば一番いいなと思います。一階はカフェになっていますが、多目的に使えるように設計しています。コンサートをやったら空間が豊かになりますし、音響がどうなるかも興味深いですね。いろいろな形で活用してほしいと思っています。

<ばん・しげる> 1957年、東京生まれ。南カリフォルニア建築大学、磯崎新アトリエなどを経て85年独立。独ハノーバー万博の日本館(2000年)や仏ポンピドー・センターメス分館(10年)、ラ・セーヌミュージカル(17年)など著名な建築物を手掛けたほか、阪神大震災で倒壊した教会を紙管などで再建した「紙の教会」(1995年)や、東日本大震災の被災地の仮設住宅、避難所の間仕切りシステムなど災害支援でも広く知られる。

 14年にプリツカー賞、17年にマザー・テレサ社会正義賞受賞。

<静岡県富士山世界遺産センター> 「信仰の対象と芸術の源泉」として世界文化遺産に登録された富士山の情報を発信する拠点施設。「永く守る」「楽しく伝える」「広く交わる」「深く究める」をコンセプトに、研究・学習や交流施設の側面もある。敷地面積は約7000平方メートルで、建物前に広がる水盤が富士山とセンターを映し出す。特徴的な逆円すい形の内部は全長193メートルのらせん状スロープ。入場者は登山道からの眺めを映像で見ながら、駿河湾から山頂までの疑似登山を体験。最上階で本物の富士山を望み、下りながら展示室に立ち寄る仕組みになっている。入館料は300円(団体割引あり)、大学生以下は無料。開館は午前9時〜午後5時。毎月第3火曜休館。

 

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