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【首都圏】

<談論誘発>なぜ活用されないのか 空き家を保育園、世田谷区の制度

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◆独協大学経済学部教授・倉橋透(くらはし・とおる)氏

 総務省統計局の「平成二十五年住宅・土地統計調査」では、空き家が八百二十万戸に達する一方、昨年四月の厚生労働省のまとめで、一〜二歳児の保育所等利用率は45・7%、全体の待機児童数も二万六千八十一人に及ぶ。

 東京都世田谷区の待機児童数は、今年四月時点でなお四百八十九人(ゼロ〜二歳児)となっており、区は「保育園整備のための空き家の除却費用補助制度」を設けている。少なくとも十年以上保育事業者に土地を賃貸することを前提に、保育需要が特に高い地域の敷地にある木造、または軽量鉄骨造の古い空き家の除却費を補助する。

 慶応義塾大学経済学部の河端瑞貴教授による東京・二十三区対象のアンケートでは、保育所利用希望者の96%が保育所選定時に自宅からの近接性を重視。同教授の他の研究でも、保育所への近接性に劣る区はゼロ〜二歳児の待機児童が多い。このため世田谷区が優先度の高い地域に重点化することは十分に説得性を持つ。しかし、世田谷区にはこれまで問い合わせ等が八件あったものの、申し込みに至ったものは皆無で、制度の活用は進んでいない。なぜ活用されないのだろうか。

 第一に保育園の認可基準に適合する物件が存在しない。東京都の「保育所設置認可等事務取扱要綱」「東京都保育所設備・運営基準解説」では、独立の園舎で一つの公道にのみ接する場合、園の敷地から公道への出口二カ所が原則十メートル以上離れていること等が必要とされるが、この十メートルの客観的根拠は「解説」にない。園舎の耐火性能にもよると思われる。

 第二に税制である。現在は土地の固定資産税・都市計画税が五年間無税になる。しかし不動産市場が機能しているところでは、基本的に市場で売却・賃貸できてしまうため、より強力なインセンティブとして相続税の軽減が必要と私は考える。

 待機児童は、主に大都市の問題であり、相続税は全国に適用されることから懸念もあろう。その点、緑地の不足も主に大都市の問題であると思われるが、貸し付けの期間が二十年以上である、正当な理由がない限り更新する等の場合、相続税、贈与税の財産評価を、20%控除する制度もある。

 わが国はこれから、労働生産性や労働参加率の向上、次世代の育成といった課題に対応していかなければならない。各地で増えつつある空き家や保育所の利用、そして待機児童の問題。行政を含め、当事者の覚悟と知恵の絞り方が問われている。

 1959年生まれ。独協大学地域総合研究所長、さいたま市空き家等対策協議会長など兼務。博士(工学)。

<世田谷区保育園整備のための空き家の除却費用補助制度> 保育事業者との少なくとも10年以上の事業用定期借地契約の締結を前提に木造は建築後15年以上経過した空き家等の除却費用を区が補助。対象地域、敷地面積等定めがある。借地料は地域の水準に照らし決定。類例の文京区の「空家等対策事業」は危険な空き家等の除却費用を区が補助、跡地は原則10年間無償で借り受け行政目的で利用。墨田区の「土地無償貸与を前提とした除却費の助成」は跡地を原則10年間、無償貸与することを条件に所有者に除却費用を助成。跡地を防災等に利用。

 

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