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【首都圏】

<メトロ小会議>銭湯 復活へ胎動 秘めた魅力 可能性を考える

銭湯について話す(左から)日野さん、ステファニーさん、平松さん=東京都杉並区高円寺北の小杉湯で

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 「斜陽」といわれて久しい銭湯業界だが近年、首都圏ではその様子が変わるきざしが見えている。異業種から銭湯の世界に身を投じたり、改革に手腕を発揮する若手経営者が活躍しているのだ。海外出身者の目線で銭湯の魅力を世界に発信している女性もいる。彼らに銭湯の魅力や将来の可能性について語ってもらった。 (聞き手、川田篤志)

 −まず自己紹介を。

 平松 創業八十五年目の小杉湯で三代目として働いています。三人兄弟の長男で、生まれた時から斜陽産業。実家が銭湯だと言うと「大変だね」と言われる。でも両親は楽しそうに経営し、地域の人もすごく喜んで入ってくれているのを見ていた。就職活動をするころには、将来は銭湯を継ごうと思いました。

 昨年は、隣接する風呂なしアパートを音楽家などアーティストらに家賃無料で提供する代わりに、銭湯を舞台に特技を生かした企画を実践してもらう「銭湯ぐらし」というプロジェクトやイベントをやった。

 日野 僕は基本的にデザイナー。この三年、銭湯のブランディング(価値向上のための戦略づくり)を一貫してやっていて、若者向けに首都圏の銭湯の情報を伝えるサイト「東京銭湯」を運営してます。きっかけは自宅で仕事をし、息抜きで銭湯に行くようになったこと。東京の銭湯を調べると、営業時間などの簡素な情報のサイトしかなかった。このままじゃ好きな銭湯が死んじゃうと思い、自分で始めました。

 −家族経営の埼玉県川口市の「喜楽湯」を二〇一六年、株式会社「東京銭湯」として引き継ぎました。

 日野 家族経営は(人手不足で)仕事のサイクルが破綻したり、新しい(アイデアの)インプットができないなど良くないところもある。二十〜三十歳代の番頭を雇うなど、ちゃんとした循環が起こるよう法人として経営をしている。

 ステファニー 私は銭湯の文化を世界中の人に知ってもらう活動をしています。インスタグラムやツイッターなど会員制交流サイト(SNS)でほぼ毎日載せている。外国人からメールもらって、銭湯のガイドもやっている。

 交換留学で日本に来て、誘われて大学近くの銭湯に入った。その時はあまり日本語をしゃべれなかったけど皆さんが優しい声を掛けてくれてお湯の気持ちよさと人の温かさを感じた。

 留学を終え帰国しましたが、仕事で一二年に東京に戻り、すぐに銭湯巡りを始めました。そこで銭湯がどんどんなくなっていると聞いて寂しくなり、何か自分でもできたらと今の活動を始めました。

◆社会的役割

 平松 今の若い世代はネットで情報過多。SNSでコミュニケーションが複雑になって、心や体に負担を掛けている。「銭湯に救ってもらった」という人に数多く出会います。リラクゼーションを提供していると思っていたけど、人を救う力まであると教えてもらった。銭湯は携帯を持ち込めないし余計な情報は入らない。デジタル・デトックス(体内にたまった毒素を排出する)な空間で、名前や肩書を全部脱ぎ去って人間らしいコミュニケーションが生まれる。地域の多世代の人とのつながりも感じられる。

 ステファニー 日常での会話は目的がないと批判されがち。でも銭湯だと気楽でどうでも良い会話が許される。そこが大事。

 日野 普段は街中であいさつするぐらいの人と目が合って、直接話をしなくても「ああ、今日もこいつは来てるな」みたいなコミュニケーションもある。震災が起きても顔見知りがいるかどうかで助け合いの度合いは違うはず。

◆未来の可能性

 −銭湯は全国的に減少傾向。将来に向けて考えていることは。

 日野 銭湯の価値観を広げるため別のカテゴリーに挑戦したい。四月にはサウナをテーマにしたアルバムを出した。今度はその発売パーティーを銭湯でやる。風呂に入らないけど集まる場になれば。(銭湯が近場にある物件を紹介するなど)不動産サービスも展開する。

 ステファニー 外国人が興味を持つのは、浴室や建物など銭湯のビジュアル。日本に来たらお寺や神社に行くでしょ。銭湯はそれと同じレベルになる可能性を秘めている。古い銭湯やモダンな銭湯などいろいろあるけど全てに魅力があります。ここ数年は銭湯業界が盛り上がっていると感じる。東京では利用者が増えたというデータもある。

 平松 銭湯を盛り上げようと動いてくれる人が自分の想像以上にたくさんいて、救われた気持ちがしている。こんな世の中が来るなんて想像してなかった。今はすごく可能性を感じている。

 平松 最近思うのはLGBT(性的少数者)の人たちとどう向き合っていくか。

 ステファニー 私も聞かれたら困る。男湯か女湯、どこに入れば良いのか難しい。

 平松 公衆を名乗る場所を経営しているので、向き合っていかなきゃいけないテーマ。大きいお風呂に入りたい人はいるはず。LGBT向けのイベントをやるなど考えるきっかけをつくりたい。

 ステファニー 例えば、営業開始の一時間前に入れる時間をつくるとか。週一回や月一回の頻度が理想的かな。

 日野 現状のままだとそれをやれる銭湯は少ない。まずはLGBTへの理解が社会全体に広がることが大切だよね。

<銭湯の現状> 厚生労働省の衛生行政報告例によると、銭湯を中心にした「一般公衆浴場」(入浴価格が統制された浴場)の数は2017年3月末現在、全国で3900軒。1989年の約1万2000軒の3分の1ほどにまで減っている。原因は、自宅風呂の普及による経営の悪化、高齢化・後継者難による廃業、立地を利用したマンション経営など他業種への転換、が多い。

<平松佑介(ひらまつ・ゆうすけ)さん> 1933年創業の銭湯「小杉湯」(杉並区)の3代目。中央大卒業後、住宅メーカー勤務などを経て、2016年に現職。浴場ライブやアートイベントなどを定期的に開き、銭湯の活性化に力を入れる。38歳。

<日野祥太郎(ひの・しょうたろう)さん> 2015年に銭湯ウェブメディア「東京銭湯−TOKYO SENTO−」の運営開始。翌年からは埼玉県川口市の銭湯「喜楽湯」の経営にも携わる。多摩美大卒。イラストレーターとしても活躍する。34歳。

<ステファニー・コロインさん> 2015年に日本銭湯文化協会が「銭湯大使」に任命。ウェブや講演、旅行誌などへの寄稿で銭湯の魅力を国内外に発信する。フランス出身。08年に立教大に留学して銭湯を初体験。これまでに入った銭湯は約800軒。33歳。

 

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