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【社会】

卑怯な日本人へ 遺作の覚悟 倉本聰さん「屋根」

作・演出を手掛けた公演「屋根」について語る倉本聰さん=東京都内のホテルで

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 「日本人そのものが卑怯(ひきょう)になっている気がするんです。情けない日本人になってきた。その怒りをこの作品にぶつけたい」。劇作家の倉本聰(そう)さん(81)が作・演出を手掛けた公演「屋根」が七年ぶりに再演され、二月五日から東京公演(新国立劇場中劇場)が始まる。笑いあり、涙ありの物語の中に、経済優先で突っ走った戦後社会への厳しい視点が貫かれている。 (瀬口晴義)

 東京から北海道の富良野に移り住んだ約四十年前、倉本さんは原野の中を歩き朽ち果てた廃屋を探した。腐った床板の向こうには、農業を捨てざるを得なかった一家の残り香が色濃く漂っていた。「カレンダーの日付が大みそかだったこともありました。食事の途中、家族で夜逃げしたんだなと…」。その体験は「北の国から」をはじめとする創作の原点になった。

 「屋根」の舞台は原生林の中に建てられた開拓小屋だ。大正末期、若い夫婦の間に次々と子どもが生まれる。雨風をしのぐ小さな屋根の下、貧しくも幸せな暮らしを営む家族に荒波が押し寄せる。徴兵された息子の相次ぐ戦死、戦後復興、高度経済成長、バブルとその崩壊、IT革命。時代の奔流に翻弄(ほんろう)される一家の姿を上からずっと見守っていた屋根の視点で、戦後の家族の一つの形が描かれる。

 息子の一人は広告代理店の社員になる。こんなうたい文句が登場する。<もっと使わせろ!><捨てさせろ!><季節を忘れさせろ!><流行遅れにさせろ!>。節約が善で浪費が悪だった時代は遠くなった。

 「今は都会が日本全体を動かしていると思い込み、食料をつくっている生産地はないがしろにされている。コンピューターやITでは食べ物はつくれないのに…。農村はますます高齢化して疲弊してます」

 二〇〇九年以来の再演となる。脚本も改稿した。この間、一一年には東日本大震災が起きた。国策の犠牲者になった福島をテーマにした「ノクターン 夜想曲」を上演した。

 「原発の核のゴミはどこも受け入れない。沖縄の基地も同じ構造です。同情はしてもそれをなんとかしようという方向には行かない。戦前生まれの僕みたいな者は、日本人がものすごく変わった、と怒りを持っています」

 貧しいけれど幸せな生き方。それを倉本さんは「貧倖(ひんこう)」と表現する。貧しくて困る貧困は避けたい。でも、貧しくとも幸せな生き方はできるはずだと。本当の豊かさとは何か。倉本さんは「遺作のつもりで取り組みたい」と意気込んでいる。

 問い合わせは電0570(00)3337へ。

<くらもと・そう> 1935年東京生まれ。脚本家、劇作家、演出家。代表作は「北の国から」「前略おふくろ様」「昨日、悲別で」など。最新刊は「昭和からの遺言」(双葉社)。

 

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