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【社会】

返済気にせず学んで 法政大教授が給与・退職金・遺産で独自奨学金

ゼミの学生と語り合う牧野英二教授=東京都千代田区の法政大学で

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 経済的に困窮した学生のため、返済の必要のない新しい奨学金制度を、法政大学(東京都千代田区)の教授がスタートさせた。原資は教授の給与と退職金の一部、遺産の生前贈与で、学生一人当たり年間二十五万円を若干名に毎年給付する。卒業後に奨学金を返済できないケースが社会問題化しており、教授は「私自身が奨学金で学び、返済を免除してもらった。奨学金のあり方を見直すきっかけになれば」と話している。 (編集委員・五味洋治)

 この教授は、法政大文学部で哲学を教える牧野英二さん(67)。ドイツの哲学者カントの研究で知られ、日本カント協会の会長も務めた。

 牧野さんは法政大で三十年以上勤務し、経済的理由で大学を辞める学生を何人も見てきた。六十歳になったのを機会に、妻の千歳さんと相談し、奨学金創設を大学に申し出た。

 個人の名前を冠した奨学金は、大学に基金をつくり、その運用益を充てるのが一般的。しかし、マイナス金利時代となり、基金からの果実は期待できない。大学側が予算で穴埋めし、奨学金を維持しているのが現実だ。大学の運営や奨学金の実情に通じていた牧野さんは、大学の負担にならず、すぐに支給を開始できる奨学金を考案した。

 まず、給与のうち毎年相当額を大学に寄贈し、その資金を基に給付を始める。次に、自身が七十歳の定年時に受け取る退職金を加えて原資を増やす。さらに、自分と妻の二人が亡くなった段階で、自宅の土地と建物などの資産全てを奨学金に組み入れる。

 原資は最終的に計数千万円に上る見込みで、これが無くなった段階で奨学金は終了する仕組みだ。既にこの内容の遺言書が大学に渡されている。

 奨学金を受け取るのは哲学科の若干名で、昨年初の奨学生が学内審査で選ばれた。金額は年間一人当たり二十五万円だ。

 牧野さん自身、若い時奨学金で学び、返済を免除してもらった経験がある。「子どもがいない自分たちにとって、財産は最終的には必要ない。節約して生活し、私が受けた恩を次世代に返したい」。定年後のことは、さまざまな状況を予想して必要な分は用意してあるといい、「心配されますが、大丈夫です」と話している。

 奨学金を受けた一人、哲学科四年の元島優(もとじまゆう)さん(22)は「これまで週五日コンビニでバイトしていたが、これで勉強の時間ができた。私も将来研究者になり、教育の場で人の役に立ちたい」と恩師に感謝した。

◆国による「給付型」なく

 国会図書館が昨年七月にまとめた「諸外国における大学の授業料と奨学金」によると、経済協力開発機構加盟各国の国公立大学年間授業料(平均額)で、日本は三十四カ国中、七番目に高かった。高等教育費の家計負担率が世界的高水準で、貸与された奨学金を返済できないケースが増えている一方で、国による給付型奨学金制度がない。

 労働者福祉中央協議会が先月発表した調査結果によると、奨学金を借りている三十四歳以下の働く男女から「奨学金返還が結婚に影響している」との回答が31・6%、出産への影響があるとの回答も21%にのぼるなど、返済の苦しさを訴える声が目立った。奨学金の充実については、国会でも取り上げられている。

 

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