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【社会】

「豊洲市場」検証報告書要旨

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◆「提言通りやる」市場長も認識 ◆コスト・工期が最大の懸案

◆「盛り土なし」答弁今もない ◆事務、技術系情報共有不十分

 東京都が三十日に発表した「豊洲市場の地下空間設置と盛り土がなされなかったことに関する自己検証報告書」の要旨は次の通り。

 ▽経緯

 【専門家会議】

 二〇〇八年七月、専門家会議は土壌汚染対策として、主要施設下を含め敷地全体に盛り土するよう提言。地下水位と水質を継続的に監視すべきだと提言した。中央卸売市場は、専門家会議の提言を豊洲移転の大前提として認識。岡田至市場長(〇九〜一一年)も「提言通りやらないということは、憲法を守らないのと同じだと考えていた」と証言した。

 【技術会議】

 専門家会議の提言を実現するための具体的な工法の検討の場として、技術会議を設置した。

 第八回(〇八年十二月)で都は「万一、地下水から環境基準を超える汚染物質が検出された場合、汚染地下水の浄化が可能となるよう建物下にこれらの作業空間を確保する」と説明した。

 第九回(同月)では、技術会議が独自に検討した事項として「仮に地下水から環境基準を超える汚染物質が検出された場合には、汚染地下水の浄化ができるよう建物下に作業空間を確保する必要がある」とした。ただし、地下とするか否かの言及はない。

 【石原慎太郎知事(当時)の指示】

 〇八年五月ごろ、比留間英人市場長(当時)は、専門家会議の最終提言案を石原氏に説明。石原氏からコスト削減のために地中にケーソン(空洞のコンクリート製の箱)を埋める案を検討するよう指示された。同年五月三十日、石原氏は定例記者会見で「新しい工法について指示した」と発言した。

 〇九年一月中旬、比留間氏は技術会議の最終提言案を石原知事に説明した際、ケーソン案はコスト面で割が合わない旨を報告。石原知事から了承を得た。

 こうした経緯と合わせ、問題の地下空間と石原知事発言との関係性はないとの証言が複数あった。

 【土壌汚染対策法改正への対応】

 土壌汚染対策法の改正(〇九年四月)が予定される中、豊洲市場では新たに二年間の地下水モニタリングが必要となることが見込まれた。ただし、法改正前の段階では具体的にどのような空間が必要かは明確になっていなかった。

 この時期、モニタリング空間を確保するには、地下に空間を作ることが前提との認識があったという都の土木部門の証言もある。

 【技術部門の内部検討】

 都の技術部門ではかなり早い段階から、モニタリング空間の地下設置を前提に検討が進められた。〇九年一月十三日の日付が入った資料には、地下空間が明確に描かれ、小型重機が地下空間に置かれたイメージ図も存在する。この段階で既にマシンハッチ(重機の搬入口)が示されていた。

 【基本設計】

 一〇年十月、石原氏は豊洲への移転を改めて表明したが計画はコスト縮減と工期短縮が最大の懸案事項となっていた。市場長も技術部門も強く認識していた。

 同年十一月、中央卸売市場に新市場整備部を新設。同月、基本設計を発注した時の特記仕様書には「モニタリング空間設計は本設計に含む」と、初めてモニタリング空間が公式文書に明記された。ただ、地下空間かどうかを含めて詳細は示されなかった。

 一一年三月、日建設計と基本設計の契約が交わされた。都は同社に地下にモニタリング空間を入れるよう検討を指示。同年四月の実務者打ち合わせで、都から検討素材として、地下空間が記載された断面図および地下空間に小型重機が入った図面が提示された。同年六月に納品された基本設計では、地下空間が建物下全体に広がる断面図が示された。地下空間に盛り土の記載は認められない。

 【新市場整備部・部課長会】

 基本設計完了後の実施設計を進めるにあたり、一一年八月十八日、新市場整備部長のもと開催された部課長会の場で、地下にモニタリング空間を設置することが議論された。

 会議では、建築部門からコスト圧縮のため地下空間を埋めてはどうかとの提案もあったが、結局、新市場整備部として地下にモニタリング空間を設置することを確認したとの多くの証言がある。

 その後、同部は市場長および管理部長に説明。コスト・工期を抑える方策の一つとして、地下に設置するモニタリング空間の高さをできるだけ低くするよう検討を進めたいとの報告があった。しかし、盛り土がなくなるとの説明はなされなかった。

 同月、土壌汚染対策工事の契約が結ばれた。同年六月の「土壌汚染対策工事起工書」では主要施設の下に盛り土を行わない内容となっている。

 【実施設計から建設工事契約へ】

 一一年九月、実施設計の起工を決定。仕様書に、地下空間が建物全体に広がっている断面図が添付された。決定権者は、中西充市場長(当時)。

 一三年二月、実施設計が完了した。断面図には、地下空間が建物下全体に示され、盛り土されることにはなっていない。これにより建物下に盛り土しないことが確定したと判断される。この設計に基づき、施設建設に着手、現在に至る。

 一二年八月、市場関係者との懇談会で、地下空間を含む設計概要を説明。示した図面に地下空間が描かれた断面図も含まれていたが直接の説明はなかった。

 【環境影響評価手続き】

 一〇年十一月、中央卸売市場から「汚染土はすべて掘削除去し、全体に購入土などのきれいな土で埋め戻す」という内容の環境影響評価(アセスメント)書案が環境局に提出された。

 同年十二月から一一年四月に評価案が審議されたが、盛り土をしないとの説明はなかった。同年十一月から今年八月にかけ、変更届が十一回、事後調査報告書が四回、中央卸売市場から環境局に提出されたが、盛り土についての変更は報告されなかった。

 ▽自己検証のまとめ

 【いつ、誰が決定して盛り土しないことになったか】

 一〇年十一月から一一年九月までの意思形成期間を経て、モニタリング空間を地下に設置することが段階的に固まっていった。最終的には、実施設計の完了をもって地下に盛り土しないことが確定した。

 【なぜ都議会、都民らへの説明責任を果たしてこなかったのか】

 一一年九月から、都議会経済港湾委員会などで計二十一回、関連答弁があったが、現在に至るまで建物下に盛り土がない旨の答弁はない。

 答弁を担当する歴代の土木担当部長は、建物下に盛り土がないとの認識がなく、事実と異なる答弁をしていた認識はなかった。このため前例に沿って答弁し、部内でも問題意識を持つ者はいなかった。

 建築担当部長らは、地下空間を認識。しかし、盛り土に関する答弁は自らの所管ではなく、答弁は土木担当部長が土壌汚染対策の基本的な考え方を述べているものと考えた。議会などで同席していたにもかかわらず、違和感を覚えることなく、修正意見を述べることもなかった。

 すべての議会答弁は市場長の了承を得ることになっていたが、答弁が事実と異なるとの認識がなく、修正させることはなかった。

 対外説明用の冊子やホームページでも、盛り土の上に建物が載った概念図を示していたことについて、概念的なものとして示したとしているが、正確性を欠き説明も不十分。都民への説明責任を果たしていない。

 【なぜ環境影響評価の変更手続きをしなかったか】

 所管する新市場整備部が変更の必要性を認識していたのか、単なる失念だったのか、いくつかの可能性が考えられるが、十分に解明できなかった。盛り土をしないという重大な変更事項を都の環境局に報告しなかった事実は重い。

 【なぜ専門家会議・技術会議に報告しなかったか】

 安全性について十分対応できているとの認識があった。また第八回技術会議(〇八年十二月)で地下空間を設けることは報告済みと思い込んでいたという証言もあり、報告するという発想に至らなかった。

 【要因分析】

 意思決定プロセスの不備や連携不足、ガバナンスの欠如など、組織運営上の問題が浮かび上がってきた。盛り土がなくなることに関して明確に意思決定をしていなかった。部課長は要所要所で市場長に判断を仰ぐ必要があり、市場長は部下とのコミュニケーションを密にして風通しの良い組織風土を作るべきだった。

 背景には、上司と部下、土木と建築、技術と事務、前任者と後任者の連携不足が、組織内で生じていたことがある。市場長をはじめとする事務系と技術部門との情報共有が不十分だったことも大きい。新市場整備部が本庁の事務系と築地の技術部門とに分かれていたことが背景の一つとの証言もあった。

 事業が進み、(新市場整備部の中に)土木担当の部長および建築担当の部長が新たに設置されるなか、縦割りが助長された。さらに、全体を統括する機能の所在が明確ではなかった。

 【おわりに】

 調査を通じて明らかになった課題は中央卸売市場だけの問題でなく、都政全体に突きつけられた重い課題だ。前例ありき、決まったことだからと漠然と仕事に取り組んでいないか、立ち止まって考えるプロセスが都職員一人ひとりに求められている。

 この調査・分析を改革に直結させなければ、失敗は再び繰り返される。そうしないための努力を直ちに始めなくてはならない。

 

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