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【社会】

<過労社会 電通ショック> (1)新人は奴隷 超タテ社会

電通マンの心得が書かれた「鬼十則」は今も社員手帳に記載されている

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 「もう体も心もズタズタだ」−。昨年のクリスマス、大手広告代理店「電通」の新入社員が自ら命を絶った。電通ではこの社員を含め、二十五年間で少なくとも三人が過労死しており、いずれも二十代、三十代の若手社員だ。国を挙げて長時間労働の是正に向けた取り組みが始まった直後の「電通ショック」。過労体質から抜け出せない日本企業の病理を探る。

 「あのときの俺と一緒だ」。東京都内でITコンサル業を営む藤沢涼さん(37)は十月七日夜、電通の新入社員、高橋まつりさんの過労自殺のニュースを見て、パソコンのキーボードをたたく指が止まった。

 亡くなる直前、高橋さんはツイッターなど会員制交流サイト(SNS)に書き込んでいた。「睡眠時間二時間はレベルが高すぎる」「眠りたい以外の感情を失った」

 藤沢さんは二〇〇一年、電通に入社した。早々、たたき込まれたのが「殺されても放すな」などと電通社員の心得を記した「鬼十則」だ。「完全にインストールしないと電通マンじゃない」と暗記させられ、十則の穴埋めのテストまで課された。

 東京本社で地方テレビ局の広告を担当していた新人時代はまさに奴隷だった。新入社員は誰よりも早く出社し、最後まで会社に残るものだとされた。上司の指示で、顧客向けの資料を徹夜で仕上げたことは一度や二度ではない。土日出勤はざらで、残業が二百時間を超えた月もあった。

 それでも上司は言った。「業務を改善したら月七十時間に収まる。おまえが悪い」。会社には労使協定で決められた上限の七十時間未満で申告するしかなかった。

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 社内の飲み会では、先輩の革靴に注がれたウイスキーを飲まされた。それは、二十五年前にある若手男性社員が受けたのと同じ仕打ちだった。

 その社員は一九九〇年に入社し、翌九一年八月に自殺した。自殺前の二カ月間は四日に一度、残業で徹夜していた。遺族が電通に損害賠償を求めた訴訟で、最高裁は二〇〇〇年に電通の責任を認めた。この裁判記録にも社員が靴に注がれたビールを飲まされたとの記述が残る。

 過労自殺で会社の責任を認める司法判断の原点となった判決。企業に従業員の健康管理を促すきっかけにはなったが、判決の翌年に入社した藤沢さんが経験した職場は、自殺した男性社員と同じようなものだった。

 「俺って生きている意味あるのかな」。死が脳裏をよぎったこともあった。藤沢さんは社内の人間関係を「スーパー縦社会」と評する。「入社してくるのは東大や早稲田大、慶応大を卒業したエリートばかり。最初に鼻をへし折るためにあえてしごく。悪く言えば洗脳です」と明かす。

 藤沢さんは過酷な新人時代を乗り越え、二十代後半になると大手メーカーの広告を任され、仕事にのめり込んでいった。しかし、過労から体をこわし休職。その後、復帰したものの病気を再発。四年前に退職した。

 十六年前に最高裁が発した警鐘は電通に届かなかった。現場の長時間労働は解消されないまま。三年前に病死した三十代前半の男性社員も過労死として労災認定された。

 かつて、自分も電通イズムを受け入れていた藤沢さんは「でも」と言葉を続ける。「もはや時代錯誤。これ以上の犠牲を出さないために、今度こそ電通は目を覚ましてほしい」

 (中沢誠、福田真悟が担当します)

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