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【社会】

認知症 感じて 端末使い疑似体験

認知症を疑似体験するための映像の一場面(シルバーウッド提供)

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 仮想現実(VR=バーチャルリアリティー)の端末を使って認知症の人に近い日常を疑似体験する試みが注目を集めている。高齢者向け住宅を手掛ける東京の事業者が今年三月から体験会を開き、延べ千人程度が参加した。認知症の人が陥りやすい状況に身を置いて当事者の気持ちを実感し、どのように手を差し伸べれば良いかを考えてもらう狙いだ。

 十月、千葉県船橋市のサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)「銀木犀(ぎんもくせい)」で行われた体験会には、慶応大商学部の学生ら約二十人が参加。数分間のストーリーを三本視聴した。

 まずゴーグル型のVR端末とヘッドホンを装着する。映像が流れると自分が電車の中で座っている感覚に。景色に見覚えはない。「ここはどこで、電車はどこに向かっているのだろう」。思い出せずに焦る女性の心の声がナレーションで流れ、その女性になったような気持ちになる。乗客につられて降りた駅のホームでぼうぜんと立ち尽くしていると、乗客の一人が近づいてきて「どうかしましたか?」。ああ、助かった−。

 映像はサ高住を運営するシルバーウッド(東京都港区)が、認知症の人の経験や介護職員らの意見を取り入れながら制作した。同社の下河原忠道(しもがわらただみち)社長(45)が認知症の高齢者らと接するうち、多様な症状があるのに、病気としてひとくくりにしてしまうことに疑問を感じたのがきっかけだ。三六〇度見渡せる高画質の映像と音響が流れ、その場にいるかのような感覚を味わえるVRなら、本人の立場で理解できると活用を思いついた。

 一本目の「電車で現在地がわからなくなる」ストーリーに続き、二本目と三本目はそれぞれ「脳機能の低下で地面までの距離感覚が狂い、足を踏み出せない」、「時間も場所も分からなくなる」内容。

 終了後、学生らは「あんなふうに見えているのか」「認知症になると感情がなくなるのかと思っていたが、こんな状況に置かれたら不安になるだろうと思った」などと感想を語り合った。

 引率した慶応大の中島隆信教授は、障害者福祉と経済学を研究しており、「当事者の感じ方を知っておくことは将来役に立つ」と授業に取り入れたという。

 「レビー小体型認知症」を発見した小阪憲司医師もVRを体験。「言葉で聞いて想像するよりもリアルに見え、認知症の人が見ている風景を理解する助けになる」と評価。一方で、高齢者の精神医療に詳しい和田秀樹医師は「どんな助けが必要なのか家族が知る機会になるが、認知症の主な初期症状の記憶障害の再現は難しい」と指摘する。

 下河原社長は「認知症の人の行動には理由があるのに、症状だけを見て差別しないでほしい。VRの受け取り方は人それぞれなので、自分で接し方を考えてもらえれば」と訴える。今後は専門医の意見も取り入れ、発信を続ける予定だ。

 <仮想現実(VR)> 専用装置で五感を刺激し、コンピューターが生み出す映像世界にいるかのような体験をする技術。英語で「バーチャルリアリティー」といい、頭文字を取ってVRとも呼ばれる。ゴーグル型のディスプレーで3D映像や音声を疑似体験する仕組みが主流。最近は多くのメーカーが関連商品の開発に力を入れており、ゲームだけでなく観光や医療など幅広い分野での活用が期待されている。

 

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