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【社会】

原発避難者訴訟 判決要旨

津波に襲われた直後の福島第一原発=2011年3月11日(国交省東北地方整備局撮影)

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 東京電力福島第一原発事故避難者の集団訴訟で、十七日の前橋地裁判決の要旨は次の通り。

 【事故原因】

 津波が到来し、6号機を除く各タービン建屋地下に設置された配電盤が浸水し、冷却機能を喪失したことが原因。

 【予見可能性】

 東電が予見できた津波の高さが、原発の敷地地盤面を超える津波と言えれば予見可能性を肯定できる。

 東電は、一九九一年の溢水(いっすい)事故で非常用ディーゼル発電機(DG)と非常用配電盤が水に対して脆弱(ぜいじゃく)と認識していた。

 国の地震調査研究推進本部が策定・公表する「長期評価」は、最も起こりやすそうな状況を予測したもの。二〇〇二年七月三十一日に策定された長期評価は、三陸沖北部から房総沖の日本海溝で、マグニチュード(M)8クラスの地震が三十年以内に約20%、五十年以内に約30%の確率で発生すると推定した。原発の津波対策で考慮しなければならない合理的なものだ。公表から数カ月後には想定津波の計算が可能だった。東電が〇八年五月ごろ「敷地南部で一五・七メートル」と試算した結果に照らし、敷地地盤面を優に超える計算結果になったと認められる。

 東電は、非常用電源設備を浸水させる津波の到来を、遅くとも公表から数カ月後には予見可能で、〇八年五月ごろには実際に予見していた。

 【結果回避可能性】

 配電盤の浸水は、給気口から浸入した津波によるものだ。(1)給気口の位置を上げる(2)配電盤と空冷式非常用DGを上階か西側の高台に設置する−などいずれかを確保していれば事故は発生せず、期間や費用の点からも容易だった。東電は高台周辺で堆積物調査を行い、津波が浸水すると考えにくいことを知っていた。

 【侵害利益】

 原告が請求の根拠とする平穏生活権は(1)放射性物質で汚染されていない環境で生活し、被ばくの恐怖と不安にさらされない利益(2)人格発達権(3)居住移転と職業選択の自由(4)内心の静穏な感情を害されない利益−を包括する権利だ。請求根拠に健康被害や財産権侵害は含まれていない。

 【慰謝料算定の考慮要素】

 原発施設は一度炉心損傷になると、取り返しのつかない被害が多数の住民に生じる性質がある。

 国と東電の非難性の有無と程度は考慮要素になり得る。東電は(1)常に安全側に立った津波対策を取る方針を堅持しなければならないのに、経済的合理性を安全性に優先させたと評されてもやむを得ないような対応だった(2)津波対策を取るべきで、容易だったのに、約一年間で実施可能な電源車の高台配備やケーブルの敷設という暫定的な対策さえ行わなかった(3)規制当局から炉心損傷に至る危険の指摘を受けながら、長期評価に基づく対策を怠った−と指摘できる。東電には特に非難に値する事実があり、非難性の程度は慰謝料増額の考慮要素になる。

 (賠償水準となっている)国の中間指針は多数の被害者への賠償を迅速、公平、適正に実現するため一定の損害額を算定したもの。あくまで自主的に解決するための指針で、避難指示に基づく避難者と自主避難者に金額の差が存在しても、これを考慮要素とするのは相当でない。指針を超える損害は最終的には裁判などで判断される。

 【個々の損害】

 原告個々の損害は、平穏生活権侵害で精神的苦痛を受けたかどうかを検討する。慰謝料は、侵害された権利利益の具体的内容と程度、避難の経緯と避難生活の態様、家族の状況、年齢、性別などの一切の事情を考慮するのが相当。

 【国の責任】

 国は(耐震性を再確認する)バックチェックの中間報告を東電から受けた〇七年八月の時点で、それまでの東電の対応状況に照らせば、東電の自発的な対応や、国の口頭指示で適切な津波対策が達成されることは期待困難という認識があった。国は規制権限を行使すれば事故を防げたのにしなかった。著しく合理性を欠き国賠法上、違法だ。

 規制権限がないという国の主張は、事故発生前から津波対策を取り扱っていた実際の国の対応に反し、不合理で採用できない。国の責任が東電と比べて補充的とは言えず、国が賠償すべき慰謝料額は東電と同額だ。

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◆福島の原告宅訪問「寄り添う姿勢」 訴訟指揮の原裁判長

 東京電力福島第一原発事故の避難者らによる前橋地裁の集団訴訟を指揮した原道子裁判長(59)=写真、代表撮影=は、審理を先送りせず結審することに強い意欲を示し、各地の同種訴訟で最も早く判決を言い渡した。

 原告側からは避難者に寄り添う姿勢があるとの声が上がっていた。

 神奈川県出身で、名古屋地裁判事、東京地裁判事などを経て二〇一三年四月、前橋地裁に着任。

 一四年、群馬県桐生市で一〇年に自殺した小学六年女児の両親が、いじめと校長らの不適切な対応が原因として市と県に損害賠償を求めた訴訟の判決で賠償を命令。いじめと自殺の因果関係を認めて校長らの責任を指摘し、自殺後の市の調査にも問題があったと批判した。

 今回の訴訟では現地の検証も実施し、他の裁判官二人と福島県内の原告宅を訪れた。昨年六月二十四日の口頭弁論で、主張が足りないとして国側がさらなる審理を訴えたのに対し「天変地異がない限り十月三十一日に結審する」と断言していた。

 

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