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【社会】

薫る昭和、惜しまれグッバイ 夫との夢いっぱい 喫茶店54年

竹ノ塚駅西口から徒歩1分の喫茶店「コーヒーハウスエリカ」=足立区西竹の塚で

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 東京二十三区の北端、足立区の東武伊勢崎線竹ノ塚駅前で半世紀以上の歴史を刻んできた喫茶店が、今年いっぱいで閉店する。店主の川上文子さん(80)が、建物の老朽化などを理由に決断した。昭和の薫りを残す落ち着きある空間が消えることに、何十年も通い続ける人たちから惜しむ声が上がっている。 (神谷円香)

 駅西口を出て徒歩一分。再開発や鉄道の高架化工事によりここ数年で急激に変わる駅前で、赤れんが模様の壁に囲まれた「コーヒーハウスエリカ」は変わらず客を迎えてきた。店内には西洋彫刻が置かれ、暖かみあるオレンジ色の明かりがやわらかいクッションの席を照らす。赤く塗られた電話ボックスも残っている。

 東京五輪があった一九六四年、川上さんは七年前に他界した夫の元基さんと二人でエリカを開店した。二十歳で九州から上京した川上さんは、大学生だった元基さんと出会い、六二年に結婚する。交際中から「喫茶店を出そう」と二人で夢を抱き、元基さんの実家の土地だった今の場所で開業した。当時、周りに商店はほとんどなく、ザリガニがいる用水路や田畑が広がっていた。

 やがて駅周辺は団地ができていき、都心に通う会社員らが住むベッドタウンとなる。人が増えるにつれ、店も広げた。開店当時十六席だった椅子は、少しずつ増やし九十席になった。

 「インベーダーゲームがはやった時は、四台置いても行列ができた。でも忙しくても仕事は楽しかった。朝来て、帰りにも寄ってくれるお客さんには『お帰りなさい』と言ってね」

店の半世紀をまとめた本を手にする店主の川上さん(右)と早乙女さん

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 元基さんが亡くなってからは、川上さんが経営を切り盛りしてきた。しかし店の周りが再開発で騒がしくなるにつれ客足は減った。かつては豪雨のたびに床上浸水した建物も老朽化が進んだ。「潮時かな」と、閉店を決めた。

 東京大空襲をテーマにした作品で知られる作家の早乙女勝元さん(85)は、四十年ほど前からの常連客だ。竹ノ塚駅から徒歩二十分の場所に引っ越してきてから通い続けている。忙しいときに「ほっと一息つける場所」だという。自宅に応接間がなく、取材を受ける際にいつも利用してきた。「地域のコミュニティーであり文化の要だった」と残念がる。

 川上さんは「お客さんに形に残る物を贈りたい」と、店と自身の歴史を一冊の本「珈琲(コーヒー)店 エリカの半世紀」にまとめた。早乙女さんが編集を担当し、常連客が店への感謝の言葉を寄せている。早乙女さんの人脈で写真家や装丁家の協力も得られ、川上さんは「おしゃれできれいな本になった」と喜ぶ。本は千円(税別)で店頭販売中。問い合わせはエリカ=電03(3899)2595=へ。

 

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