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【社会】

AI眼鏡 この文字読んで 「音」に変換 東京の企業開発

オトン・グラスを装着する島影さん。フレームのボタンを押して文章を撮影する=東京都港区で(志村彰太撮影)

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 人工知能(AI)を使い、内蔵カメラで撮影した文字を自動的に音声に変換する眼鏡型端末の開発を東京都港区のベンチャー企業が進めている。開発のきっかけは、社長の父親が脳梗塞で倒れ、文字が理解できなくなる「失読症」(ディスレクシア)に悩まされたこと。父を助けたいとの一心で生まれた新製品。社長は「障害の有無に関係なく、誰もが文字情報を利用できる社会を実現したい」と意気込む。 (志村彰太)

 会社名と端末名は「OTON(オトン) GLASS(グラス)」。父親の「おとん」と「音に変える」をかけた名前に、社長の島影圭佑さん(26)の思いが込められている。

 島影さんは首都大学東京で工業デザインを専攻。二〇一二年、三年生の時に父芳幸さん(69)が脳梗塞で倒れた。一命を取り留め、寮の管理人の仕事も続けられたが、ディスレクシアに苦しんだ。寮の鍵の番号が読めず、テレビの字幕や雑誌の記事が理解できない。元気がない芳幸さんを見て、島影さんは「役に立ちたい」と考えた。

 開発に向け、自ら端末のデザインを担当し、プログラミングや機械設計に強い学内の仲間の力を借りた。大学の卒業研究で試作一号機を手掛け、情報科学芸術大学院大(岐阜県)に進学した直後に会社を設立した。昨年末に三号機を製作し、これまで視覚障害者団体や研究機関に一台四十万円ほどで販売。実際に使ってもらい、改善点の助言を受けてきた。

 文字を音声に変える技術は米グーグル社のサービスを利用。日本語が苦手で、インターネットに接続しないと動作しないなどの課題があるため、自社で文字認識、音声変換するソフトの開発も検討する。年内に実用モデルを製作し、一九年の市販を目指している。

 開発から五年がたち、芳幸さんはリハビリで日常生活に支障がないほど回復した。オトン・グラスは必要なくなったが、島影さんは「翻訳機能も盛り込めば、読めない外国語も理解できるようになる」と夢を膨らませている。

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◆「認識の精度 改良できれば」

 オトン・グラスの使い心地はどうなのか。一カ月間、試した会社員真鍋明子さん(53)=岐阜県山県市=は「きれいな音声で読み上げ、全体として使いやすかった」と話す。

 真鍋さんは今年、視力が極端に低下する難病「レーベル病」と診断された。現在は目の前のものの輪郭がぼんやりと感じられる程度といい、仕事は休職し、夫に助けてもらいながら日常生活を送っている。

 オトン・グラスで、郵便物の宛名や単純な文章などは読み取れた。ただ、写真と文字が一緒に配置されているレストランのメニューや新聞では間違いが多かった。「複雑なレイアウトに対応するよう改良してもらえると助かる」という。

 記者も試してみた。眼鏡を装着し、本や書類を目の前に置く。眼鏡左側面のボタンを押して数秒待つと、撮影した部分の文章をAIがすらすらと読み上げた。文章を認識できる距離など課題はあるものの、抑揚や単語の切り方に違和感はなかった。

<失読症(ディスレクシア)> 通常の会話や論理的思考に問題はないが、文字の読み書きがうまくできない症状。幼少期に発達障害の一種として発症する場合と、成長してから脳血管疾患の後遺症として表れる場合がある。周囲には、文章を見せる時、大きな文字で書いたり行間を広めに空けるといった配慮が求められる。難読症と呼ぶこともある。

 

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