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【社会】

凍結卵移植、夫の同意必要 無断出産 父子関係は判断せず

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 夫婦関係が悪化して別居中に、過去に作製した凍結受精卵を元妻の女性(46)が無断で移植し妊娠、出産したとして、外国籍の男性(46)が第二子の長女(2つ)との間に民法上の父子関係がないことの確認を求めた訴訟の判決で、奈良家裁は十五日、父子関係を認める要件として「凍結受精卵の移植時に夫の同意が必要だ」との判断を示した。

 生殖補助医療の浸透や高度化に伴い、父親側の同意がないまま生まれた子どもの法的地位を巡る判断として注目を集めそうだ。男性側の弁護士によると、体外受精の出産で父子関係を認めるには夫の同意が必要とした初の判断とみられる。

 また、民法七七二条が「妻が結婚中に妊娠した場合は夫の子と推定する」と定める「嫡出推定」の規定は、生殖補助医療で出生した子どもにも当てはまると言及。今回のケースは手続き上、長女がこの規定に基づく嫡出子であることを否定する別形態の訴訟で争うべきだとして、法的な父子関係の有無を直接判断せず、訴えを却下した。

 渡辺雅道裁判長はまず、民法が想定していない体外受精などの生殖補助医療で生まれた点のみで子どもと夫の間に法的な父子関係を認めないのは相当ではないと指摘。

 生殖補助医療による父子関係を認める要件としては、生物学上のつながりが認められるだけでなく、夫が妻との間に子どもをもうけることに同意している場合だとした。

 その上で、凍結受精卵は長期間の保存が可能なため、夫の同意は妻への凍結卵移植時に得る必要があるとした。

 却下理由の中では、離婚成立前の別居中だった妊娠当時、男性と元妻が第一子の長男を含めて旅行や外出をするなどの交流があったと指摘。結婚中の妊娠でも例外的に嫡出推定が及ばない事情はなかったとした。

 親の二人は二〇〇四年に結婚し、〇九年から不妊治療を開始。奈良市のクリニックで作製した複数の凍結受精卵の一部で、一一年に第一子の長男が誕生した。その後夫婦関係が悪化し、一三年から別居。女性は一四年、男性の同意を得ないまま残りの受精卵を使って妊娠し、一五年に長女を出産した。二人は昨年十月に離婚した。

◆原告男性「法整備ないと繰り返される」

 過去の凍結受精卵を元妻が無断で使って妊娠、出産した第二子の長女とは法律上の父子関係がないと奈良家裁で争った外国籍の原告男性(46)は、訴えを却下した十五日の判決に「残念だ。法整備がないとモラルの欠如やずさんな管理で問題が繰り返される」とのコメントを報道各社に寄せた。

 原告側代理人の河野秀樹弁護士は記者会見で、男性が「面会交流が裏目に出たことを残念がっていた」と説明した。

 一方、元妻と長女側の代理人弁護士は「子どもの福祉を考えた結論だ」としたが、同意を得る必要性に言及した判決内容には「現在の民法では解釈に無理があると思う」との見解を示した。

◆明確な同意 ルール化を

 生殖補助医療で生まれた子どもとの父子関係を認める要件として、凍結受精卵の移植時に夫婦の同意が必要とした十五日の奈良家裁判決は、医療の進歩で不妊に悩む多くのカップルが子どもを得ている社会状況に即し、一定の倫理的な基準を示す判断となった。

 ただ、今回の判断はあくまでも一般論にとどまる。夫の同意がなかった今回の例では訴訟形式上の理由から訴えを却下し、具体的な父子関係の有無に関する判断には踏み込まなかったが、子どもの法的利益を最優先に、移植時の同意を明確にするルール作りが必要なのは変わらない。

 明治時代から引き継がれる民法は現代の生殖補助医療を想定していない。通常の妊娠は両性の合意が前提となるのに対し、体外受精などの場合は受精卵作製後に凍結保存し、長時間を経て女性の子宮に移植して着床させるために、その間に不仲になれば夫婦間の合意の継続性が揺らぐことが問題の根幹にある。

 日本では一九九〇年代から生殖補助医療による出産が急速に増加する一方、民法などでの法制化は遅れている状況だ。出生を巡る争い自体が子どもの尊厳を傷つける恐れもある。法的なトラブルを防ぐために、子どもをもうける際に明確な同意を得る必要性を医療機関だけでなく、社会全体が議論する必要がある。 (共同・渡辺夏目)

 

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