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【社会】

広辞苑、初の「原発」編集者 来月改訂版【廃炉】【安全神話】など新語

改訂版の広辞苑を手にする原発担当編集者の川原徹さん=東京都千代田区の岩波書店で

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 岩波書店の国語辞典「広辞苑」の編集者に一九五五年の初版刊行以来、初めて原発担当が加わった。改訂版(第七版)は来年一月十二日に刊行される。東京電力福島第一原発事故後、原発を巡る言葉は日常で広く語られるようになったが、旧版に収録済みの「放射線」など原発関連の項目は、説明文に専門用語が並んでいた。受け持った川原徹さん(46)は、収録語の見直しや、「廃炉」「安全神話」など新たに追加した約二十語の選定で「将来も使われ続ける言葉」にこだわった。

 「原発は、もはや一部の専門家や立地に暮らす人だけの関心事ではない」。原発事故から数カ月後に開かれた編集会議。川原さんが原発担当の編集者を置こうと提案すると、全員が賛同した。

 広辞苑は十年前後の間隔で改訂されてきた。編集者が担当分野を持ち、削除や追加する項目を検討し、専門家らの意見も参考に収録語を決める。選定基準は社会における定着度や重要性だけ。旧ソ連のチェルノブイリで八六年に起きた原発事故は地名を収録した。今回の改訂版は「東日本大震災」を追加した。

 旧版収録語の見直し作業では分かりやすさを重視した。「放射線」は「アルファ線…」などと学術的な説明だったため、人体に健康被害を及ぼす性質があることを書き加えた。消費するより多くの核燃料を生む「増殖炉」も、かみ砕いた表現にした。

 新語の候補集めでは、収録語リストを点検し「廃炉」が載っていないことに驚いた。福島での事故前、原発は建設や稼働ばかりが注目されていた。「自分も含め、皆があまりに無頓着だった」。即座に収録を決めた。

 電車の中づり広告、新聞、インターネットなどを手掛かりに流行語や外来語も集めた。「脱原発」を訴えるデモ行進も目に留まった。追加候補は約二百語に上った。

 候補を絞り込む作業は苦しかった。「内部被ばく」は事故後、広く浸透したと思えたが、二つの語の複合だと考え、見送った。「再稼働」も同様だった。放射線量が高く、立ち入りが制限されている福島県内の「帰還困難区域」は、区域指定が解除されれば必要なくなると判断。ただ、「事故前の暮らしが戻らない現状を知っておいてほしかった。最後まで悩んだ」。

 新語は社会へのメッセージでもある。甲状腺がんを防ぐための薬「ヨウ素剤」は浸透しているとは言い難い言葉だが、「もしもの時のために効果や服用法を知ってほしい」と追加を決めた。事故時に原子炉格納容器内の蒸気を放出する装置「ベント」を使うと、放射性物質を含む希ガスも放出される。「住民避難の際、多くの命を左右するなら必要だ」として盛り込んだ。

 次の改訂は約十年後。事故の風化は避けられないかもしれない。辞書編集者の立場から原発の将来を見ていくつもりだ。

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