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【社会】

戦地で日常への思い詠む 兵士の「平和」1700句

戦地からの俳句を収めた同人誌「三河」を紹介する中根久治さん=愛知県幸田町で

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 「戦友の血吸いし土踏みしめて秋寒き」「塹濠(ざんごう)の銀河を寒み母恋ひぬ」。愛知県三河地方の俳句同人誌「三河」の会員たちが、日中戦争や太平洋戦争の戦地で詠まれた千句以上の俳句を集め、出版する作業を進めている。会員の一人、中根久治さん(74)=同県幸田町=は本紙朝刊一面に掲載される「平和の俳句」と比較させ、「戦地から平和を願った俳句も気持ちは同じ。貴重な記録として残したい」と話す。(森田真奈子)

 「三河」は一九二九(昭和四)年、愛知県の豊橋陸軍教導学校の教官だった市川丁子(ていし)が創刊した俳句月刊誌。三〇年から四四年四月に一時停刊になるまでの十五年間、九十一人の兵士らの約千七百句が掲載された。投稿者は同校の出身者も多かったとみられる。居住地には「在満」「北京」のほか、「第一線」との記載も多く、前線からの投稿もあったことがうかがえる。

 中根さんは五年前、三河の千号発行を控え、過去の原本を収集。戦前期の句を見て、「有名な俳人ではなく、一般兵士の俳句は珍しい」と出版準備を始めた。

 「椰子(やし)の月露営のゆめは母の夢」「押花の桜の手紙抱いて寝る」「死体探しに出ていく寒き月の原」

 兵士らの俳句には壕(ごう)や屍(しかばね)、銃などの言葉を使った戦争に関わるもののほか、故郷の自然や家族を懐かしむ句が目立つ。寒さや雪など慣れない気候、麦畑やパパイアなど異郷の風景を詠んだ句も多い。

 中根さんは二年前に「平和の俳句」が始まって以来、現代の人が詠む平和と兵士らの思いを重ねて考えてきた。「平和の俳句は日常から戦争という非日常を詠んだ句。逆に兵士らは非日常の中で日常の人間の営みを求めて句を詠んだ」

 中国の子どもとの交流を詠んだ句などもあり、「彼らも戦争を美化したり、外国を憎んだりしたわけではない。平和を求める気持ちは今に通じる」と語る。

 出版は来年夏ごろの見通し。中国や南方の戦地と、朝鮮や台湾の外地から投稿された俳句に加え、当時の雑誌に掲載されていた投稿者や編集者のコラムや日記も資料編として収録する。多くの人の目に触れるよう、電子書籍としても出版する予定だ。

◆文芸は時代超え 心の奥底伝える

<「平和の俳句」選者、いとうせいこうさんの話> 私たちの「平和の俳句」が、過去に存在していたことを掘り起こしていただいた。今は一見平和に見えてもどこかで戦争に近づいていることを先日、(八月まで選者だった)金子兜太さんと話したばかりだ。文芸は時代を超えて人の心の奥底を伝えてくれる。

<俳句同人誌「三河」> 全国的な俳句雑誌だった「石楠(しゃくなげ)」に参加していた愛知県三河地方の俳句愛好家らが中心となって創刊。石楠のつながりで、戦前に東京や北海道など全国各地から投稿があった。現在は会員約200人。同県蒲郡市を拠点に発行作業をしている。戦時中の一時を除き毎月発行され、今月で1033号を数えた。

 

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