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【社会】

教訓継がれているか、検証作業を 編集局次長・瀬口晴義

 教団と関わらなかったら一流の研究者になっただろうな…。東京拘置所で面会したオウム真理教の元幹部にはそう思わせる人物がいた。地下鉄でサリンをまいて、死刑が確定した彼のことを考えるたび、師を誤った不幸を思う。

 麻原彰晃死刑囚はヨガや瞑想(めいそう)の指導者として力があった。神秘体験に興味を持つ若者を「本物だ」と錯覚させることはたやすかったはずだ。牧歌的なヨガサークルはやがて宗教団体になり、家族や財産を捨てた多くの若者を吸収した。

 ある時期から教祖は自らが「救世主」であるとの妄想に取りつかれた。極貧の少年時代、視覚障害、逮捕歴…。恨みに起因する強烈な破壊願望は、心の空虚さを抱えて社会になじめなかった弟子たちと共振し破滅に至る。死刑判決を受けた元幹部は十三人。共犯者の刑の確定で麻原被告らの刑の執行に注目が集まるだろう。

 武装化した教団が暴走した経緯、真面目な青年たちが教祖にひきつけられた理由など、審理で明らかになったことは多い。しかし、教祖は口を閉ざし、国松孝次警察庁長官狙撃事件、村井秀夫元幹部の刺殺事件など未解明の闇は残る。

 坂本堤弁護士一家殺害事件の初動捜査の失敗、松本サリン事件後に再びサリンを使用されることを防げなかった失態など、警察組織の問題点が正面から問われることもなかった。米中枢同時テロの際、米議会の独立調査委員会がテロを防げなかった捜査機関の責任を追及したのと対照的だ。

 事件を知らない世代が教団の後継団体に入るケースも多いという。教訓は受け継がれているのか。さまざまな角度から、事件に再び光を当てる検証作業を、国の責任で今からでも始めるべきだろう。

 

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