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【社会】

執行猶予中に万引 福祉支援考慮で再び猶予判決 認知機能低下、80歳

判決後に会見する梶浦明裕弁護士(右)と社会福祉士の今野由紀さん=29日、東京・霞が関の司法記者クラブで

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 窃盗罪で有罪判決を受けた直後の執行猶予期間中に万引をしたとして、改めて窃盗罪に問われた男性被告(80)に、東京地裁は二十九日、再び執行猶予のついた判決を言い渡した。執行猶予期間中の再犯で、刑の執行が猶予されるのは珍しい。判決は、被告が高齢で犯行の背景に認知機能低下の影響がうかがわれるほか、社会福祉士による更生支援があることを考慮した。

 被告は昨年三月、都内のスーパーで食料品十八点を万引。同五月、東京簡裁が懲役一年、執行猶予三年の有罪判決を言い渡した。ところが、判決確定から約十日後の同六月、被告は都内のスーパーで再び、食料品十五点を窃取。東京地裁は二十九日、懲役一年、保護観察付き執行猶予三年(求刑懲役一年六月)を言い渡した。

 家令(かれい)和典裁判官は、被告が万引を繰り返す背景に「認知機能の低下の影響がうかがえる」と指摘。社会福祉士による更生支援計画がつくられ、保釈後に一人での外出が許されていない介護施設に入所しており、再犯のおそれが著しく低くなっているなどとして、刑の執行を猶予した。検察が控訴せず、判決が確定すれば、このまま施設で暮らすことになる。

 弁護人によると、被告は脳梗塞による脳の障害があり、認知機能が低下。犯行当時は一人暮らしだった。

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 同種の裁判では、神戸地裁が二〇一六年、執行猶予中に万引をした認知症の女性被告=当時(61)=に「治療すれば更生が期待できる」として再び執行猶予付き判決を出したケースがある。

<執行猶予> 有罪判決を受けても情状により刑の執行を猶予する制度。一定期間、問題なく過ごせば刑の効力は失われる。3年以下の懲役・禁錮または50万円以下の罰金を言い渡すときに適用できる。猶予中に再び罪を犯すと実刑判決となることが多い。1年以下の懲役判決などの場合、情状に特に酌量の余地があれば、再び刑の執行を猶予できる。

◆刑務所ではない選択 評価

 「認知機能の低下で万引をしてしまう人を刑務所に入れて再犯防止になるのか、裁判所が考えてくれた」。男性被告の弁護人を務めた梶浦明裕弁護士は判決の言い渡し後、東京・霞が関の司法記者クラブで会見し、判決を高く評価した。

 会見には、被告の更生支援計画をつくった社会福祉士の今野由紀さんも出席。「男性にお会いして刑務所ではなく、より良い支援のあり方があると考えた。結果として再犯の防止にもつながると思う。家族の協力も大きかった」と話した。

 厚生労働省によると、日本の六十五歳以上の人口は約三千四百六十万人(二〇一六年十月現在)で、総人口に占める割合は27%超。うち七人に一人が認知症を患う。一方、一五年に刑務所を出所した人のうち、二年以内に再び刑務所に入った人の割合は、全体が18%なのに対し、六十五歳以上は23・2%で、高齢者の高い再犯率は社会的な問題となっている。

 高齢犯罪者の問題に詳しい追手門学院大の古川隆司准教授(社会福祉学)は「認知症のある人の罪をどう扱うか、裁判例はまだ少ない。刑務所への収容が更生につながりにくい実態を考えると、今回の判決は意義がある」と指摘した。

 その上で「認知症の人をどう受け入れるかは、私たちの社会に課せられた宿題だ。施設に入所させて解決とするのではなく、共に暮らせる社会を目指すべきだ」と話す。 (岡本太)

 

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