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【社会】

通勤事故死 過労が原因 世田谷の会社、遺族に謝罪し和解

 商業施設への植物の装飾を手掛ける「グリーンディスプレイ」(東京都世田谷区)に勤務していた稲城市の渡辺航太さん=当時(24)=が二〇一四年、ミニバイクで帰宅途中に事故死したのは過重労働が原因として、両親が同社に約一億円の損害賠償を求めた訴訟は八日、横浜地裁川崎支部で和解が成立した。会社側が過労と睡眠不足が原因と認めて遺族に謝罪し、約七千六百万円を支払う。通勤時の事故で会社側が責任を認めて和解が成立するのは異例。

 母淳子さん(61)は厚生労働省で記者会見し、過労事故死を防ぐための会社の安全配慮義務の先例として「大きな意味がある」と評価した。和解勧告によると、渡辺さんは一三年十月、アルバイトとして同社で働き始め、一四年三月に正社員になった。翌四月二十四日午前、徹夜勤務を終えて仕事先の横浜市都筑区からミニバイクで帰宅途中、川崎市麻生区で電柱に衝突し死亡。事故当日の労働時間は、前日からの約二十二時間で事故前一カ月間の時間外労働は約九十時間だった。

 遺族側の代理人弁護士によると、会社側は訴訟で事故原因に関して渡辺さんの不注意と主張。橋本英史裁判長は和解勧告で、会社側が「適切な通勤方法を指示するなど、事故を回避すべき義務を怠った」と安全配慮義務違反を指摘した。

 和解条項には再発防止策として、勤務終了から次の勤務まで十一時間以上の間隔を空ける「勤務時間インターバル」やフレックス制の採用などに取り組むことも盛り込まれた。

 同社は「勧告を厳粛に受け止め、ご心配とご迷惑をお掛けしたことをおわび申し上げます」とのコメントを発表。一方、会社側の弁護団も声明を発表し、地裁支部の事実認定に「重要な点の証拠調べを行う前に、事故の原因を居眠り運転とし、会社の責任とする前例のない判断をした」と批判した。遺族は一五年四月に提訴。事故に関して通勤災害として認定されている。

◆隠れた労災 企業に責任

 「過労死の撲滅は、社会全体の悲願だ」。八日、会社側が過労による事故死と認めた和解勧告で、橋本英史裁判長はそう強調した。現在は過労死防止法に規定がない「過労事故死」への対策が進む先例になってほしい、との関係者の願いも込められている。

 背景には、広告大手電通の違法残業で高橋まつりさん=当時(24)=が二〇一五年に過労自殺した事件などを契機に、企業の労務管理に対して社会の目が厳しくなっていることがある。

 原告側は、会社の仮眠室が利用できる状態ではなかったことなど、休憩を取れずに長時間労働を強いられた実態を明らかにした。地裁支部は、休憩時間があったとする会社側の主張を退け、拘束時間のほとんどを勤務時間と算定、事故は予見できたと認定した。

 遺族側代理人の川岸卓哉弁護士によると、通勤時の交通事故に関して、企業側の管理責任まで問われることはほとんどなかった。帰る方法は本人が決められることに加え、事故と過労との因果関係を立証するのが難しく、本人の病気や不注意による運転ミスの可能性もあるためだ。一四年施行の過労死等防止対策推進法でも、過労事故死は定義されていない。

 川岸弁護士は、和解を受け「通勤中の事故はこれまで労働者の自己責任とされてきたが、会社が安全に帰らせることを求めた。過労死の対象を広げ、対策を強化させることになる」と意義を語る。企業側は社員の命と健康を守るため、この教訓をどう生かすかが問われる。 (大平樹)

 

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