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【社会】

<取材ファイル>記者が強盗傷害事件の裁判員に 21歳被告の人生見つめた5日間

裁判員席からみた法廷の様子。記者のスケッチを基に、判決を傍聴した、なかだえりさんが再現した。傍聴席では、実母が息子の佐々木被告をじっと見守っていた

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 東京地裁で裁判員を経験した。昨年二月に東京都足立区のアパートで起きた強盗傷害事件で、判決までは五日間。わずかな期間だったが、被告の将来を左右するだけに、証拠から何が事実かを見極める濃厚な時間だった。 (山川剛史)

 担当した事件は、同区の解体工佐々木裕一被告(21)=別の強盗未遂事件で保護観察付きの執行猶予中=が留守のアパート二軒に侵入し現金などを盗み、うち一件で帰宅した女性(37)と鉢合わせし、あばら骨を折るなどの傷害を負わせたとの内容だ。

 当初、大きな争点はなく、難しい裁判ではない印象を受けたが、法廷の裁判員席に座ると、一人の人生に関わる重みを実感した。被告はこちらを向き、検察官も弁護士も身ぶり手ぶりを加えて語りかけてくる。仕事柄、法廷は見慣れているが、傍聴席とは何もかもが違う。

 判決を決めるまで考慮すべきことは多かった。執行猶予付き判決が出た三カ月後に事件が起きたこと。パチンコなどでお金がなくなり、被告は盗みに入ったこと。けがを負った女性は「二カ月間は働けず、暗い部屋に一人で入れなくなった」と証言し、彼女の人生を狂わせたことも重い事実だ。身勝手で粗暴と断じるのも一つの道だ。

 その一方で、被告は一歳の時に実母に事実上捨てられ、養い親からは暴力を受けて非行に走った。縁を切られた孤独感から自暴自棄になっていた。

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 少年院時代の記録をたどり、弁護側は実母を捜し出した。拘置所で対面した実母は、被告に「生きていてくれてありがとう」と伝えた。この一言で、被告は「生きていていいんだ。悲しませちゃいけない人ができた」と、更生への意志を強めているという。

 審理が終わり、判決に向けた評議に入った。家令(かれい)和典裁判長からは「皆さんとわれわれ裁判官は同格です。遠慮なく意見を言ってください」と言われた。裁判員六人と補充裁判員二人は、会社員、地方公務員、主婦、クリエーターなどさまざま。年代も二十代から六十代。裁判官三人が加わった計十一人は、一日半かけてじっくり評議した。

 守秘義務で経過は明かせないが、判決は懲役八年の求刑に対し五年。粗暴犯という検察側の主張はかなり違うとの結論となった。それでも前の事件の執行猶予が取り消され、懲役三年が加わる。

 判決言い渡しの後、家令裁判長を通じ、裁判員らの思いを代弁してもらった。「自分は独りぼっちで生きていても仕方がないと言ったが、身元引受人の親方、保護司、弁護人、そして裁判員もあなたのことを思い続ける。見守る人がたくさんいることを心にとどめてほしい」

 被告は「ありがとうございます」。はっきりした声でそう答えた。

 

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