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【社会】

「魔法の本屋さん」40年で幕 代々木上原駅前「幸福書房」

「幸福書房」の店内に立つ岩楯幸雄さん=東京都渋谷区で

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 品ぞろえの良さで約四十年にわたって親しまれ、作家の林真理子さんとの交流でも知られる書店「幸福書房」(東京都渋谷区)が二十日、閉店する。店舗の賃貸契約の終了が直接のきっかけだが、出版不況が背景にあるという。林さんは「駅前に本屋さんがある街の風景がなくなるのは寂しい」と残念がる。 (原尚子)

 「えっ、やめちゃうの」「残念です」。小田急線代々木上原駅前の店に次々に入ってくる常連客に事情を説明しながら、店主の岩楯(いわだて)幸雄さん(68)は「本心を言うと続けたいけど、年のこともあるし、潮時ですね」と複雑な表情を見せる。

 近所に住む林さんが長年通い、この店で林さんの著書を買うとサインがもらえることでも知られた。会計後に岩楯さんがいったん本を預かり、林さん宅に届ける。林さんがサインを終えると店に連絡があり、岩楯さんが取りに行くという方法で、ここ数年は全国からファンが集まった。林さんに真っ先に閉店を知らせると、涙を流したという。

 幸福書房は一九七七年、岩楯さんが弟の敏夫さん(65)と豊島区南長崎で始めた。八〇年に現在の場所に移転。二十坪(約六十六平方メートル)の店を元日以外の三百六十四日、朝八時から夜十一時まで、岩楯さん兄弟と妻たちの四人で切り盛りしてきた。

 「いつ行ってもなぜか欲しい本がある」と評判なのは、大手取次会社からの配本に頼らず、毎朝仕入れに行くからだ。「一番楽しい仕事。まず新刊が基本だけど、お客さんの顔を思い浮かべながら、あの人はこれが好きそうだと想像しながらね」と岩楯さん。客に勧めたりはせず、「棚(に並べること)で会話をしているような感じ」という。

 書店に詳しいライターの空犬太郎さんは「小さい本屋さんではなかなか置けない人文書、歴史書が充実していて、店主さんのお薦めの本は二冊ずつ並べて目立たせる『二冊差し』をするなど、細かな工夫がされている」と特徴を話す。子どもが学校帰りにトイレを借りたり、学校で嫌なことがあると話していくことも。「街の本屋にはそういう役割も必要」と岩楯さんは語る。しかし、八〇年代をピークに売り上げは減少。二月末に店舗の賃貸契約が終了するのに合わせて閉店を決めた。

 十代の頃から通う近所の富川ジュンさん(52)は「コアな本でも魔法のように出てくる不思議な本屋さん。駅を降りてここの明かりが見えるとホッとするし、街の優しい雰囲気を作ってきた。なくなるのは寂しい」と惜しんだ。

◆書店見て引っ越した

<林真理子さんの話> 18年前、駅前に喫茶店とこの書店があったのを見て近所に引っ越した。品ぞろえの良さで意欲が感じられる本屋さんで、なくなるのは本当に残念。本はネットで買えばいいという人もいるが、ふらっと行って手応えのあるものを買うという習慣が大切。それがなくなる損失は計り知れない。

 

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