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【社会】

<駆ける>(中)完走 友への恩返し 浪江から避難 石井壮明さん(65)

自宅近くの公園で準備運動をする石井壮明さん=千葉県成田市で

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 何人もの親戚が東日本大震災で津波にのまれ、命を落とした。友人は東京電力の福島第一原発事故の影響で避難生活が続き、自ら命を絶った。「彼らの無念の思いを胸に抱いて走りたい」。福島県浪江町から千葉県成田市に避難している石井壮明(そうあき)さん(65)は東京マラソンを走り切ることが、彼らへの恩返しだと思う。

 事故前は浪江町でギフトショップを経営していた。避難直後は、いつか町に戻り、店を再開できると思っていたが、自宅はイノシシに荒らされ、住める状況ではなくなった。店を継ぐ予定の長男は東京都内の弟の家に移り、就職先を見つけた。一緒に働いた仲間も各地に散り、新たな仕事を見つけた。

 「もう故郷で仕事を再開できないのか」。事故から二年余り、ふさぎ込む日が続いた。そんなある日、原発事故の影響で、津波被害に遭った住民の救助に行けなかった消防団員たちの無念の思いを聞いた。

 生きたくても生きられなかった人たち。「このままではいけない。彼らの分も自分が必死に生きなきゃ」

 気持ちを切り替えようとランニングを始めた。初めは近所を走るだけで膝を痛めた。スポーツ団体に入り、知り合った仲間と数キロ走ることからスタート。徐々に距離を伸ばし二年ほど前からフルマラソンを走るまでになった。

 今は毎朝十キロを一時間かけて走る。マラソンを始める前と比べ、体重は十四キロ減り、友人からは「別人みたいね」と言われる。

 自分自身も変わったことを実感している。気持ちが前向きになり、くよくよしなくなった。店へのこだわりからも解放され、「後はゆっくり余生を楽しめばいい」と思えるように。合唱団に入ったり、パソコンや卓球の教室に通ったりするなど、さまざまなことに挑戦している。

 今年は散り散りになった二十人ほどの浪江町の友人に「東京マラソンで走ります!」と書いた年賀状を送った。受け取った友人からは「頑張って!」とエールが届いている。 (望月衣塑子)

 

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