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【社会】

ハンセン病患者の小説を映画に 差別の歴史を伝え続ける

「檻のなかに」の映画用脚本と絵コンテ=儀保俊弥さん提供

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 ハンセン病療養所で出会った映像ディレクターと編集者が、六十年余り前に入所者が書き残した小説を映画化しようと動き始めた。背景には、入所者の高齢化が進み、療養所の暮らしや差別の歴史を伝えてきた「語り部」がいなくなる危機感がある。二十五日に東京都内で対談イベントを開き、映像化の意義や課題を語り合う。 (谷岡聖史)

 「入所者が書いた小説の魅力は生々しさ。映像になれば、当時の生活や差別の実態を、もっと多くの人に知ってもらえる」

 そう話すのは、映画化を目指すフリー編集者佐藤健太さん(43)=東京都日野市=と、映像ディレクターの儀保(ぎぼ)俊弥さん(31)=さいたま市南区。二人はハンセン病に関心を持ち、駿河療養所(静岡県御殿場市)に通ううちに親しくなった。

 佐藤さんはハンセン病関連の本の編集を手掛けながら、療養所内でガリ版刷りの同人誌などに残る膨大な小説を研究。二〇一二年から、入所者と市民が語り合う読書会を開いている。

 儀保さんは、いくつかの作品を読み「映画になる」と直感。一六年末ごろから二人で構想を練り、長島愛生園(岡山県瀬戸内市)の入所者、宮島俊夫さんの「檻(おり)のなかに」を基に脚本と絵コンテを仕上げた。

 失明した園内の作家に代筆を頼まれた主人公が、美しい作家の妻に振り回される物語。宮島さんが亡くなった一九五五年に出版された作品集に収められている。儀保さんは「展開がスリリングで、園内の創作活動の様子もよく分かる」と評価する。

 今回の対談イベントは佐藤さんが企画した。全国の国立療養所入所者は千四百六十八人で、平均年齢は八五・三歳(昨年五月現在)。体験を語る元患者も次々と亡くなり、「映画や漫画など、語り部に代わる手法を考えなければ」と危機感を抱く。映画化は時期や資金など未定のことが多いが、儀保さんは「実際に撮影する前提で書いた脚本なので、イベントを機にぜひ実現させたい」と意気込む。

 ハンセン病を描いて映画になった小説には松本清張の「砂の器」、遠藤周作の「わたしが・棄(す)てた・女」(映画は「愛する」)、ドリアン助川さんの「あん」がある。一方、入所者が小説を書いた例は北條民雄の「いのちの初夜」など多くあるが、映像化された作品はないとされる。

 イベントは午後一時〜三時四十五分、国立ハンセン病資料館(東京都東村山市)で。川端康成文学館(大阪府茨木市)の今井瞳良(つぶら)学芸員(映画学)のハンセン病映画史の解説もある。無料。問い合わせは佐藤さんの電子メール=sbenzo.jokyouju@gmail.com=へ。

<ハンセン病> 感染症の一種で、神経や皮膚を侵す。感染しても発症するのはまれで、現在は錠剤を飲む自宅療法が確立している。治療法のない時代には悪化して手足や顔が変形する場合もあり、差別の対象となった。国は「らい予防法」の前身となる法律を1907年に定め、患者を全国の療養所に隔離する政策を取った。同法は96年に廃止されたが、差別や家族関係の断絶により社会復帰できない入所者は多い。

 

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